22 雷ちゃんと謎の異国神(3)
家へ上がると、いつも神様方が宴会に使用する大部屋に、お札つきの麻縄でぐるぐる巻きに縛り上げられた大男が転がっていた。一応、大男に怪我はないか、確認しようとそっと近づいた。すると、男がむくっと体を起こした。
(うわっ、プロレスラーみたいだ)
筋骨隆々で、顔の半分は波打つ茶色の髭に覆われ、髪もチャックどころでない、茶色の巻き毛がボサボサに伸びて、肩にまでかかっていた。
「*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。. .。.:*・゜゜・*」
「????」
何か話かけられたけれど、まったく何を言っているのか分からない。私は、自分の部屋からタブレットを持ってきた。英語とか、ドイツ語とか試したがうまく通じない。スペイン語で少し反応したけれど、やっぱり通じない。
「よし、イタリア語」っと。
これが正解だった。
「私は、人を訪ねて来た」
「誰をですか」
「アミャノヒッポゥコです」
「あなたのお名前は」
「私の名前は、ヘーパイストスです」
「ほう、ヘーパイストスさんですか。えっ、ヘーパイストスっ!」
まさか、本当にヘーパイストス・・・
「ヘーパイストスさん、あなたは、ゼウス神の雷槌を作りましたか」
彼は、うんと頷いた。
「・・・・・・」
その時、縁側の向こう、池の辺りに、雷ちゃんが律子さんを連れて降下してきた。
私は、翻訳機能で聞き出したことを、律子さんに伝えた。雷ちゃんは、タブレットへ手を伸ばし
「こんな便利なものがあるんだ。律子さんを連れてくるまでもなかったな」
「ダメ、触っちゃダメだ」
私は慌てて、雷ちゃんを止めた。雷ちゃんは口を尖らし
「ええ、いいだろう、ちょっとくらい」と、言った。
「雷ちゃん、これはとても繊細なんだ。ちょっと過電流が流れたら故障するから、雷ちゃんは帯電しているから、触っちゃダメだよ」
(本当に勘弁してほしい。これ一台で、二ヶ月稼いだアルバイト代が吹き飛ぶんだぞ、学割があっても高いんだから)
律子さんは首を傾げ
「ヘーパイストスさんがお探しの方の名前が、いまひとつはっきり分からないわね」
へーパイストスはもう一度繰り返した。
「アミャノヒッポゥコ」
私も、宙を睨んで考えた。
「アミャってアメかな?ヒッポゥコ・・・ヒッポコ???」
突然、雷ちゃんが叫んだ。
「それ、アメノヒボコじゃないのか?あの刀の大先生だろう」
(刀の大先生って、大酒呑の熊親父のこと?)
神様たちは最近、ここで定期的に酒盛りを開く。その時、顔中髭面の、片目に黒い眼帯をはめた熊みたいな親父さんが時々顔を出して、みんなから、刀の大先生と呼ばれていた。ただ、その親父が来ると、いつもの三倍酒量が増えるので、酒とつまみの用意が大変だった。それに親父は、焼酎が大好きで、銘柄指定があるから、本当に面倒くさいのだ。
律子さんは、手を叩いた。
「そうだわ、きっと天日槍のことだわ。まだ、日没前だから、起きているはずね。青銀を使いに出して、ここへ来てもらいましょう」
(ええっ、今夜は、魔王を出せなんて言いませんように)
私は、酒盛りが始まらないことを祈りかけて、ふと疑問に思った。私自身が神なのに、一体誰に祈ればいいのだ?




