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21 女神イシュ・チェル(2)

「もう、本当に、これ以上関わるのはやめなさい。手の施しようもないことに、これ以上関わっても仕方ないでしょう。それに、女神が解放されたのよ、あなたに、どんな害が及ぶかも分からないのよ」

 観音菩薩が真剣に私を諌めた。しかしチャックが観音菩薩の前へ飛び出し、

「でも、イツァムナをあのままにしてはおけない。わっちらの父神を、あんな惨めな末路を辿らせたままで済ますなんて、そんな事できないっ」

 と、叫んだ。

「あの禁術も、イツァムナの失墜も、多分、私の存在が切っ掛けとしか思えない。それに、すべてマヤの神域で起こったことである以上、マヤの神が見届けるべきです。途中で(ほう)(てき)することはできません」

「・・・でも、そんな場所へ、どうやって行くつもりなの」

 観音菩薩が呆れた様子で尋ねた。

 私は、再び闇のバラム神の記録を開けた。

「ククルカン、闇のバラム神の召喚に応じよ」

 中から緑色の光が溢れ出し、羽毛のある蛇、ククルカンが現れた。

「ヒイィィー、虚空蔵の中に何てものを呼び出したんですかっ」

 虚空蔵菩薩が目を剥き叫んだ。

(あれ?虚空蔵菩薩は蛇が苦手なのかな・・・ごめん)

 巨大な蛇、頭部には王冠のような飾り羽が広がるククルカンは、私の体へ巻きついた。

「ひさしぶりだね、バラム神、なんだかしょぼい格好に変わっちゃったね。それに、何か別の仲間の気配がする。あんた、龍と付き合ってるだろ。浮気するなんて酷い奴だ」

と、二股に分かれた赤い舌をチョロチョロ出し入れしながら、金色に縁取られた緑色の眸で私を覗き込んだ。

「ごめん、若い龍を今預かっているんだ。ククルカンは元気そうだね」

「俺は、あんたに呼ばれたらいつだってご機嫌なんだから、もっと呼び出してよ。で、どこへ行きたいの」

「チャックと私を、神の墓場へ連れていってほしい」

「いいよ、陰気な場所だけど、あんたが行きたいなら連れていってやるよ」

「待って、私も行く、連れていって」

ダーキニーが割って入った。

「いや、三人はちょっと・・・」

ダーキニーをあそこへは連れて行きたくなかった。

「うーん、お嬢さん、可愛らしいから、連れていってあげるよ」

(しまった、こいつはお調子者だというのを忘れていた)

「顯、トフィールって奴は卑怯な奴だから、まだ何か仕掛けてくるかもしれないよ。私が一緒に行って、顯が正気を失いそうになったら、どんな事をしてでも、正気に戻してあげるから、一緒に連れていって」

 ダーキニーの真剣な言葉を聞くうちに、私も、考えた。トフィールの狙いが神威なら、まだ揺さぶりをかけてくるかもしれない。

「分かった、一緒に来てくれ」


 三人は乗りにくいので、チャックは原身のカエル姿に戻り、私の肩の上に乗った。巨大化したククルカンに、ダーキニーと相乗りし、ふたたびバラム神の記録の中へと戻らせた。


「行ってしまったわ。大丈夫なのかしら・・・虚の神が関わるなんて、恐ろしすぎる」

 観音菩薩は、ククルカンと三人を呑み込んだバラム神の記録を、しばらくじっと見つめた。



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