3 お母さんに捕まってしまった。(3)
開け放たれた障子の外側、廊下に顯の母親が立っていた。すらっとした体つきで、整ってはいるけれど、女性にしては凛々しい顔立ちの人だ。くっきりした黒い眉が、堂明寺の伯父さんとよく似ていた。でも伯父さんよりずっと色白で、目の下の隈が目立ち、充血した目で顯を見据えた。
「・・・・・・」
「和歌子ちゃん、顯くんよ。早くこっちに来て、抱っこしてあげなさいな」
妙な緊張が漂う空気の中、ゆきえ伯母さんの声がのんびりと響いた。顯を膝から下ろすと、伯母さんは立ち上がり、顯の手を引き、座卓から離れて和歌子へ近寄った。ゆきえに手を引かれるまま、顯は和歌子の真ん前に来た。
私は、『お母さんよ』とか、『覚えているかしら』とか言われるのかなあとか、呑気に考えていた。
ところがー
「あなた誰っ、顯は死んだのよ。どうしてここにいるのよ!!」
鬼女の形相で、和歌子は金切り声を上げた。その瞬間、弱々しく光っていた顯の魂魄が消えてしまった。
(ああっ、しまった!)
油断だった。まさか、こんな反応がいきなりくるなんて、魂魄を取り戻そうとしたが、もう掴めるものは何もなかった。
(・・・・・・・)
魂魄を失った体は、もう保つことができない。私は離れようとした。ところが、いきなり和歌子が体へ抱きつき、大号泣した。
「顯ああぁぁぁっ、生きてたのね。本当に顯なのねっ」
和歌子からの生気の奔流が、私を捕まえた。
(そんなあ・・・順番がおかしいだろう。なんで、魂魄吹っ飛ばしてから、自分の生気を流しこんでくるんだよ〜)
私がぼやく間にも、暖かな生気が顯の全身を循環した。それは、私の周囲をぐるぐる周り、一見華奢な薄織物のようなのに、強靭な檻となって私を捉え、決して離すまいと包み込んできた。
(ううぅぅん、これは予想外だったなあ・・・どうしたものだろう)
私が悩んでいる間も、和歌子は顯を抱きしめ泣き続けた。顯の服に和歌子の涙が染み込んだ。それは、温かい涙だった。