20 禁術の真相(2)
「なるほど、キニチ・アハウは、何か大きな災厄を経験されたのでしょうな」
イシュ・チェルの話を聞き終わると、トフィールはそう言った。
「大きな災厄、まさか彼は何か悪い事でも仕出かして、罰を受けたとでも・・・?」
彼女は目に涙を溜めて不安気に言った。トフィールは慌てた様子で両手と首を同時に振ってみせた。
「いやいや、あのご立派なキニチ・アハウに限って、悪事だなんてありえない事です。ただ・・・」
「ただ、何なの?」
「彼は、私と同じように異国から流れついてきた神だと聞いております。それならば、もしかすると、前世の記憶をお持ちで、それが悪夢の原因なのかもしれませんね」
「前世の記憶・・・」
「そう、前世の記憶です。異国では、神の中に前世の記憶を持つものがいるのです」
イシュ・チェルは、私が記憶を失っていることを知っていた。そして、トフィールの言葉と、その事を結びつけて、納得してしまった。
「もし、もしもの話だけれど、その前世の記憶を思い出せなくなっていたら、それはとても辛くて苦しいことでしょうね」
「ええ、それはもちろん、苦しいに違いありません。けれど、思い出す方法は、ちゃんとありますよ」
「えっ、本当に、どんな方法なの?」
「人間は、愛する者を失い、再び会いたいと願う時、反魂術というのを行うのです」
「「「反魂術ですって!!!」」」
観音菩薩と虚空蔵菩薩、ダーキニーが同時に叫んだ。まったく、トフィールは何と恐ろしいことを、彼女へ吹き込んだのだ。
「聞いたこともない術だけれど、それで、前世の記憶を取り戻すことができるのかしら?」
トフィールは、頭を横へ振った。
「その術はあくまで人間が行うものです。神の前世を取り戻すには、少しやり方を変えなければならないし、執り行うのは、その神を愛し、神からも愛されている者でなければなりません」
先日、内傷を負ってまで、自分でこの経緯を話していなければ、今ここで神威が暴発し、虚空蔵の一部が吹き飛んでいたかもしれない。しかし、今は、真相を知らなければならないという思いで、ただ冷静に聞き続けた。そうではあっても、トフィールの巧妙な悪辣さには、反吐が出そうだ。
彼女は、無垢な眸を見開き、大きく頷いた。
「それなら、大丈夫、できるわ。ねえ、その術のやり方を教えてくださいな」
「ふうむ、少々難しいので、途中まで、私がお手伝いしましょう、そして呪文を唱える練習を一緒にしましょう。この事は、あなたの大切な人には、秘密にしておくのですよ」
「あら、どうして?私たち、隠し事はしない間柄なのよ」
「隠し事だなんて、ただ黙っていた方が、驚かれて、喜びも大きかろうと思ったまでです」
「まあ、そうだわ、その通りね。こっそり用意して、驚かした方がいいわよね」
そうして、二人はセイバの木の下から立ち上がり、どこかへ行ってしまった。ユム・カーシュは、彼らの何ということもない会話を聞きながら、なぜか不安が増してきた。何に対して不安感が増すのか、それが分からないから、ますます不安になると、ぶつぶつ独り言をいい、そこで記録は中断した。




