19 虚空蔵へショートカットだ(1)
私は立ち上がり、すっかり冷めたお茶を自分で入れ、一気に飲み干し、椅子に腰掛けた。そして、チャックへ
「イツァムナを最後に見たものは誰、それはいつのこと?」と、尋ねた。
チャックは、小鼻を広げ、宙を睨み、
「ウウン、ここ数十年、噂を聞いたこともなかった。エク・チュアフが、カカオ農園の裏手で、恨めしそうな顔をして立っているのを見かけたことがあると、だいぶ前に話してた。それが、人間の暦だと、五十年くらい前だと思う」
エク・チュアフとは、商売の神でカカオ豆の守護神だ。チョコレート景気で成金になったと聞いている。金にがめつく、現実的なあの神が、イツァムナを見間違えることはまずないだろう。しかし、それも五十年も前となると、位置の特定は無理だろう。
「念話を聞き取った時、何か気になることはなかったのか?」
チャックは天井を睨み、しばらく考えた。
「雑音が多かったくらいで、特に、印象に残るようなことはなかったな」
「どこから念話が飛んできたのかも分からないのか?」
チャックは首を振った。何も手がかりがない状態で、イツァムナを探し出せるだろうか・・・まあ、無理だろうな。
内傷を負ったせいで、まだキリキリ痛む腹に手を当てて、私は困り果てた。今は凡人にすぎない私に、できる事は限られている。ナクシット石を取り上げ、すべてを私のせいにしたイツァムナ、今さら彼を助ける義理なんてないと断ってしまいたい。けれど、ナクシット石が盗まれたと聞いては、そうもいかない。
考え込んでいると、本堂の天井付近の空間に突然裂け目が現れ、目も眩む光とともに誰かが転がり出てきた。
「何だっ」皆、一斉に注目した。
「ちわっす、金剛波羅蜜特急便です。お荷物お届けします。えっと、海雲寺の観音菩薩が、青華寺へ出張中ってことで、こちらへお持ちしました」
両足に火車をつけた護法童子が、空中に浮かんでいた。
「エッ、わたくし宛なの」
驚く観音菩薩へ頷き、護法童子は、荷札を確認した。
「はい、西方浄土からのお急ぎ便です。神森 顯くんへ必ず渡すようにってことです。それから、阿弥陀如来から伝言があります」
観音菩薩は立ち上がり、拝礼を行った。
「『観音菩薩よ、顯くんへ、虚空蔵であなたが見た記録のことを話してあげなさい。きっとお困りごとの役に立つでしょう』とのことです」
(虚空蔵で見たこと・・・禁書のことね、それにバラム神の記録、そうだわ、確かに話しておかないとっ)
観音菩薩から朱印をもらうと、護法童子は、また空間を開き、光とともに消えた。
護法童子が行ってしまうと、観音菩薩は、顯へ向き直り、
「顯くんに話しておかないといけないことがあるの」と言った。
ところが、ダーキニーが割り込んできて、
「この荷物、顯に渡すことって書いてあるよ。顯、早く開けて、開けて、中身を見ようよ」と、叫んだ。
観音菩薩は、先に荷物を開封させることにした。




