18 ナクシット石の秘密(4)
「私がシバルバーの深淵に籠っていると、ある日、イツァムナが降りてきた。彼は、私を酷く罵った。私が、かつての神名を取り戻すために邪術を用い、その際にイシュ・チェルを惑わし傍に置いた為に、娘は巻き添えとなったと言うのだ。だが、術の発動で反噬を受けるのは、術者自身だ。その事は、冷静に考えれば分かることだが、イツァムナは、そんな事すら、筋道立てて考えることができない有様だった。私は沈黙し、彼が話し終わるのを待っていた。
ふいに罵り声がやみ、彼を見ると、泣いていた。彼は『娘を返してくれ、おまえは娘の体を持っているのだろう』と言った。それから、『お前たちは、まだ夫婦でもなかった。何の関係もないおまえが娘を傍に置き、父神である私が娘を傍に置けないのは道理に反することだ。おまえは、私へ、娘を返すべきだ』と、訴えた。イツァムナは、娘を返すまで、決して諦めない様子だった。私は、ナクシット石を渡し、肌身離さず身につけて、決して外さないことを誓わせた。そして、ここへは二度と来るなといって、イツァムナを地上へ追い返した」
「ええっ、あのナクシット石の中には、イシュ・チェルが入っているのか」
チャックは、初めて知った真実に衝撃を受けていた。私は頷いた。手が氷みたいに冷え切って、薬瓶を落としてしまった。体が傾いで、床へ倒れた。
「きゃっ、顯、しっかりしてっ」
ダーキニーの声が聞こえた。人間の体は、限界値小さめ設定だから、限界を超えたらしい。私は、意識がなくなった。
「やっぱり、その丸薬を飲ませた方がいいのじゃない?」律子さんの声が聞こえた。
「ダメ、絶対ダメ、今度は味覚音痴くらいじゃすまないと思う」
ダーキニーの声。
(まったくその通りだよ。薬を口に押し込むのだけはやめてくれ)
意識は戻ったが、瞼が重くて開かない。体は何だか温かい。頭も何か柔らかいものに乗っていて、温かくて気持ちいい。でも、いつまでも寝ているわけにもいかない。私は、目を開けた。
「・・・・」
「顯、気がついたのね」
翡翠色の眸が、私の顔を間近で覗き込んでいる。ダーキニーだ。
(えっ、どうしてこんな至近距離にいる?)と、驚いて身じろぎしかけたら、いきなり、頬を両側からぎゅっと挟み込まれた。
「まだ寝てなさい。具合が悪いんだから、無理しちゃダメよ」
段々状況が分かってきた。体は毛布に包まれていて、上からダーキニーに覗き込まれていた。頬を挟み込む両手もダーキニーの手だ。(だとすると、私の頭を支えているのは・・・)
「いいなあ、そんな可愛い子に膝枕してもらって、キニッチはやっぱりモテモテだなあ」
横から恨めしげなチャックの声が聞こえ、膝枕は確定した。私はきまり悪くなってきて、顔が赤らむのを感じた。
「きゃっ、顯、赤くなっちゃって可愛いっ!」
ダーキニーの奇声で、私はいっきに平常心を取り戻した。




