18 ナクシット石の秘密(1)
チャックの話が終わり、会話が途切れると、律子さんが尋ねた。
「あなたたちの神域の話だから、口を挟むつもりはありませんけれど、ナクシット石って何なの?それにイツァムナ神とか、トフィールとかキニチ・アハウって、どういう来歴の神なの?」
ごもっともな質問です。部外神には、何のことだか分からないでしょう。私は相槌を打ち、説明を始めた。
「まず、ナクシット石ですが、西洋で賢者の石と呼ばれるものの近縁種です」
「賢者の石、実在するんだっ」と、ミカエルが叫んだ。私は、ミカエルへ視線を移し、
「ただし、実在するのは、神域の話で、この下界ではありませんよ」と、釘を刺した。それから、続けて
「ナクシット石は、物質の構成を変容させる力があります」と、付け加えた。
「つぎに、イツァムナ神は、マヤ神域における最高神、長老格の神です。全生物の父神と呼ばれていました。でっ、ト・・ゴホッ、ゴホッ」
トフィールへ言及しかけて、咳き込んでしまった。拒絶反応マックスで、名前すら口にしたくない。チャックが気の毒そうな顔で、続きを引き受けてくれた。
「トフィールは、後の時代になって、北の方からやって来た。雷の神だって自称していたが、雷を扱うところを見た者は誰もいない。ただ、とても愛想が良くて、口のうまい調子のいい奴で、一時は人気者だった。それから、キニチ・アハウは、マヤの太陽神だ。大昔は、イツァムナじゃなくて、キニチ・アハウを最高神として祀るマヤ部族もいたんだ。で、そのキニチ・アハウが、わっちが方々探し回って見つけだした、このキニッチなんだよ」
そう、キニチ・アハウ略してキニッチ、それが、私のマヤにおける神名の本名だった。(ただし、キニッチなんて横着な呼び方をするのは、このチャック神くらいなものだが・・・)
「でも、あなたは、闇のバラム神なのでしょう?」と、律子さんは不思議そうに尋ねた。
「そうですね。マヤの神域では、元来、私は、光と闇の力をともに有する神でした。だが、ある事が起きて、私は光の力を失い、闇の世界へ籠ったのです」
ああ、本当に、この件だけは決して話したくない。理性を失わずに、すべて話すことができるだろうか。私は、ただ、禍々し赤い丸薬をじっと睨んだ。
観音菩薩が私へ話しかけた。
「顯くん、ここには、わたくしもいるし、降三世明王も、律子さんもいるから、ちょっとくらい理性が吹き飛びそうになっても、ちゃんと押さえ込んであげるわ。それにどうしても駄目だったら、あなたの口をこじ開けて、その赤い丸薬を投げ込んであげますから、どうぞ遠慮なく、言いたいことは全部言っちゃいなさい」
観音菩薩の恐ろしい励ましに私は引き攣った笑みを浮かべ
「はい、ありがとうございます」と礼を言ったが、丸薬を口へ押し込まれる前に、神威の暴走は、絶対に自力で食い止めねばと思った。
「顯、心配しないで、何かあったら、私が抱きついて止めてあげる」
(ここには、後門の狼ならぬダーキニーもいたんだ。っていうか、もうしっかり抱きついてるじゃないかっ、頼むから離れてくれ、胸が当たって気が散るっ)




