17 顯 四苦八苦に沈む(3)
お茶を飲んだ後、私はは疲れたから寝ますと言って自室へ引き上げたが、その際、律子さんへ、チャックと会うのは明後日にしてほしいと言った。その日は、土曜日で、午後は講義がなく、時間があったからだ。ただ、会う場所は、青華寺を指定した。
当日
私は、気が進まないまま、青華寺へ約束の時間の十五分ほど前に到着した。すると、ダーキニーが私を見つけて、空から降りてきた。
「顯・・・」
ダーキニーはそれきり黙ったまま、私をしばらくじいっと見つめた。
「何?」
「何か、変なもの食べたんじゃない?いつもと、雰囲気違うよ」
「特に変わったものは食べていないよ」
私は、チャックの話を聞いて以来、気分が沈みっぱなしだった。だから、素っ気ない口調だったかもしれない。
「やっぱり変よ。顯じゃないみたい」
顯じゃないなら、ここにいる私は誰だというのだろう。ダーキニーには構わず、本堂へ行った。
もうチャックとミカエルは到着していて、和尚が用意してくれた太師椅子に腰掛け、お茶を飲んでいた。
「キニッチ・・・」
チャックは、今日はまだ着ぐるみ着用中で、その情けない声は、イケメンマッチョの外見とはまるで不似合いだった。
「ここの和尚は、人外のものに慣れていらっしゃるから、その着ぐるみは脱いだらどうだ。着心地が良さそうにはみえないぞ」と、声をかけると、素直に脱ぎ捨てた。
「えっ、何これっ、詐欺だわ」
私の後から本堂へ入ってきたダーキニーが声を上げた。
「・・・営業用は、見栄えを良くしておかねばならんのよ、おっ、おみやぁ、可愛らしい女の子、な、名前は何というの?教えて、教えてっ」
チャックは、ダーキニーへ駆け寄り、飛び跳ねながら名前を聞いた。こういう所は、昔から変わらない奴だ。
「えっ、私は、ダーキニーだよ」と、引き気味に彼女が言った。私は、二人を放置したまま、太師椅子に腰掛け、ポケットから錠剤入りの瓶を取り出し、しげしげと眺めていると、そこへ今度は、お茶を運んできた青銀が、瓶を見るなり顔を強張らせ
「ヒッ、顯、それをまた呑むつもりなのか。やめとけって」と、叫んだ。
「呑まないよ。ただの戒めに置いておくだけさ」
そう、私が手にしているのは、例の禍々しい赤色の錠剤、聴天由命丸だ。これを呑むような破目になるくらいなら、死ぬ気で神威の暴走くらい抑えられるだろう。(と思う)
「あら、皆さん、お揃いでしたのね」と、最後に観音菩薩と一緒に律子さんが入ってきた。
今日こそは、チャックの話を聞かなければならない。それが、どれほど辛く、苦痛に感じることであっても、マヤの神域に関わることでは、拒みようがない。
チャックは、着ぐるみを脱ぐと、太師椅子では座りにくそうだ。私は立ち上がり、チャックの体格に合う、小さな椅子を探した。話を聞かなければならないと分かってはいるけれど、雑用にかまけて、少しでも先延ばししたい気分だった。




