17 顯 四苦八苦に沈む(1)
「顯くん、大丈夫?」
律子さんが背中を摩ってくれた。私は、黙ったまま、大丈夫と頷いてみせた。
「キニッチ、あれはトフィールの仕業なんだと思う。わっちが、おみゃあに、今さらこんな事を頼める立場じゃないことは分かってる。けど、ナクシット石を取り戻さないと、あいつは絶対また碌でもない禁術を発動させるに違いねえんだ。ムゴッ!」
私は、いきなりチャックの口を手で塞いだ。これ以上は聞きたくなかった。
「今日はもう帰ってくれ」
「フゴ、フゴゴゴゴッ」
チャックは短い腕を振り回し、私へ必死で訴えかけたが、もう取り合わなかった。これ以上聞き続けたら、まったく自制が効かなくなる。私は応接間を飛び出すと自室へ入り、結界を張って閉じ籠った。
「キニッチ・・・・やっぱり怒ってるんだ」
顯に取り残されたチャックは、また泣き出した。
「チャック、ナクシット石って何なんです?私は、その話、まったく初耳なんですが・・・」ミカエルが強張った顔でチャックを睨んだ。
律子さんが、パンッと手を一拍打った。
「あなた方、揉めるなら帰ってからにしなさい。顯くんは、具合が悪いようだから、こちらからまた日を改めて連絡します。今日のところはホテルへお戻りなさい」
その夜、青銀はこっそり抜け出し、海雲寺の観音菩薩を訪ねた。
「あら、青くんがここへ訪ねてくるなんて珍しい。どうしたの」
観音菩薩は、青銀がまだ若い龍なので、つい青くんと呼んでしまう。いつもは、そこで「俺は青銀だよ」と返しがあるのに、本堂へ入ってきた青銀は、黙ったままだった。
「どうしたの?元気ないわね」
「・・・ワカ、いや顯が変なんだ」
「顯くんが変なのはいつもの事じゃない。変わり者なんだから」
青銀は、口を尖らし、しばらく考えた。
「黙ってるし、笑わないし、表情全然ないし、それに何か、バチバチ飛んでるんだ」
青銀の言う事は、感覚的すぎて、何のことだかさっぱり分からない。拈華微笑が引き攣りそうになるのを堪えて、観音菩薩は辛抱強く詳しい説明を求めた。
「それって、どういうことなの、もう少し詳しく話してくれないかしら」
「夕方、チャックっていうのと、ミカエル何とかっていう外国人を律子さんが連れてきたんだ。そのチャックが顯の膝に乗り上げて、俺がビックリしたら、律子さんに祠へ追い出されて、その後、バチバチが飛び出して、俺の鱗が捲れ上がるような変な感じがして、感電したみたいにビリビリするし、しばらくしたら、その部屋から顯が飛び出して自分の部屋に結界張って閉じ籠ったんだ。で、時々咳き込む音がするけど、いくら呼んでも、開けてくれないんだ」
話を聞くうちに、観音菩薩には分かってきた。
「それって、神威が吹き荒れて、顯は内傷を起こしたんじゃないの・・・大変だわ」




