16 雨神チャックがやって来た!(4)
私は、チャックを膝から下ろそうとしたが、張り付いたまま離れようとしない。仕方なく、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を間近に見たまま尋ねた。
「どうやって、私を見つけ出したんだ」
チャックは小鼻を膨らませ、ちょっと得意げに言った。
「シバルバーのフンカメーが、バラム神に出食わしたって噂を聞いて、あいつをとっ捕まえて聞き出した。それで、セノーテへ見に行ったら、おみゃあはいなかった。もう一回フンカメーのところへ押しかけて、仲介した呪術師と供養祭の祭主の名前も聞き出した」
なるほど手際がいいなと思ったが、そこからどうやって日の本まで線を繋げたんだ?
「後は簡単だったぞ、シゲル カンモリで検索かけたら、マヤ遺跡発掘報告のHPが見つかった。それで、後は、お前の住所をミカちゃんに調べてもらって、来日した」
私は天を仰いだ。今の世の中、なんでもネットで繋がっているのだった。そのくらい、世界シェアナンバーワンソフトの開発者チャック・ウルフなら、造作もないことだろう。私が父親と接触するのに、二年もかかったのとは大違いだ。
私は、これ以上擦り付けられては堪らないので、ティッシュで顔を拭ってやりながら、チャックへさらに尋ねた。
「で、結局ここへは何をしにきたんだ?ただ、私に謝るためだけに、来日したわけじゃないんだろう」と、言いながら、今度は中腰になって、チャックを膝から滑り落とした。もういい加減、足が痺れて痛かったのだ。膝からずるずる滑り落ちながら、チャックは、私を子犬みたいな目で見上げて言った。
「キニッチ、わっちを助けてくれ。ひとりじゃどうしたらいいのか分からない。ナクシット石が盗まれちまったんだ」
「・・・・・・」
私は、数秒、息をするのを忘れた。部屋の中の緊張が高まるのを感じたが、どうにも自制が効かなくなった。
「盗まれたって、あれはイツァムナーが守っていただろう?」
私に見下ろされ、チャックはぶるぶる震えた。
「だって・・・イツァムナーごと消えちまったんだよ」
「・・・・・・」
(チャックの推理が正しかった。この男、やっぱり人間じゃない。こんな凄い圧、どんな神からも感じたことがない・・・凄い、凄いよ!)
ミカエルは、今まで感じたことのない神威の波動の直撃を受け、感動に身を震わせた。長命族は、神威の波動を正確に感じ取る器官を有す。ミカエルは、未知の強さの波動を身に浴び、陶然となった。
律子さんも、呆気に取られていた。今までも、力の片鱗が見えることはあったけれど、顯の体から、ここまで明らかに神威が現れたのは初めてのことだった。
(一体、何者なの?)
私は激しく咳き込んだ。うっかり自制を忘れて、神威を解放してしまった。凡人の体で解放してしまうと、人の気の巡りがズタズタになってしまう。胃から内出血して血を吐いてしまった。慌てて気の巡りを修正して、内傷を修復した。




