16 雨神チャックがやって来た!(3)
夕方、律子さんは、外国人ふたりを連れて現れた。正座は無理そうなので、板敷の応接間へ通した。外国人ふたりがソファに腰掛け、横の肘掛け椅子に律子さんが腰掛けた。私も、律子さんの横に座ると、テーブル越しに差し出された名刺を見た。
(青薔薇聖十字騎士会・・・)如何にもといった怪しげな団体名も気になるが、それを私へ差し出した男、ミカエル・ランベルニュイと名乗った男のことがもっと気になる。(へえ、長命族ってまだ残っていたんだ。大劫の時に絶滅したものだとばかり思っていたよ)
長命族は、上古の時代に馴染みがあるので一目で分かった。ミカエルは、凡人とは異なる長命族だ。だがまだ若手の方で、せいぜい数百年生きたくらいだろう。見た目は凡人と異ならないが、注目すべきはその寿命の長さだ、上古には、数百年、数千年生きた者もいた。長命族は、凡人に比べて圧倒的に人数は少ないが、神官をつとめる者が多かった。青薔薇聖十字騎士会は、長命族の組織なのかもしれない。
そしてもう一人、お忍び来日中だという、チャック・ウルフ、律子さんは、二人に興味津々の様子だ。
(うわっ、何、この着ぐるみ男)
私の目には、イケメン男子の着ぐるみを被る、奇妙な小男が透かし見えた。小男の方も、こちらの気配を探っている様子だ。だから、私の方も遠慮なく、着ぐるみの中身の正体を探ってみた。小男からは、熱帯雨林の湿った土の匂いがした。そして一瞬、雨蛙の姿が見えた。
「えっ、チャックって、雨神チャックなのか?」思わず、声に出してしまった。
すると、着ぐるみが消え、小男が飛び上がって、私へ抱きついた。
「グエッ」(重い、暑苦しい、離れてくれっ)
「会いたかったよ〜、おみゃあをずっと探してたんだよ〜」
「まあ、感動の再会なのね」律子さんは人ごとのように言う。
私は、必死でチャックを顔から剥がした。窒息寸前で、やっと剥がれた。
「・・・・本当にチャックなのか?」
信じられない。本当にチャック神なら、最後に別れた時の状況から考えて、これほど友好的な態度をとるとは考えられなかった。けれどチャックは、目から涙、鼻から鼻水を流し、私の膝の上に跨ったまま、
「ごめんよ、キニッチ、わっちが間違っていた。みんな、後悔しているんだ。わっちたちは、みんな、トフィールの奴に騙されてたんだ。あの後、新しいキニチアハウなんて、現れなかった」といい、遠慮なく、私のシャツに顔をこすりつけた。(うわっ、やめろ、汚いだろっ)
お茶を運んできてくれた青銀が、チャックが私に抱きついているのを見て、固まってしまった。律子さんが立ち上がり、茶器の乗ったトレーを受け取ってくれた。
青銀は、こちらを指さし、目を見開いて、口をパクパクさせた。けれど、律子さんは、テーブルに茶器を置くと、にこやかかつ有無を言わせず、青銀を、今は取り込み中だから祠にいなさいと追い払ってくれた。
表題No.入力誤りのため、17から16へ訂正しました。




