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3 お母さんに捕まってしまった。(1)

 「・・・・・・」

 私は、顯の父親と一緒に関西空港に降り立った。目下、私を見下ろす禿頭で眉が濃くて、迫力のある目つきの大男と無言で見つめ合っているところだ。(ねず)色の袈裟と墨染めの僧服、この人は、私の母の兄、伯父だ。

 

 ホセから背中を押され、その後の教授の行動は早かった。彼と別れて、コテージの中へ入ると、今度のクリスマス休暇に小旅行を計画していた助手の院生が、旅行ガイドを見ていて、そこにまさしく私が見せてやった場所が掲載されていたのだ。その後は怒涛の展開だった。私は、一年半ほど前、この湖の岸辺で倒れていた。その時の服装と持ち物が、誘拐された当時のものと一致し、その上、子供用の旅行鞄の中にあったパスポートが決め手となった。それは、鍵付きの隠しポケットに入れてあったので、神森教授が持ってきた鍵で解錠し取り出したのだ。考えなしに動いても、結果が伴うのは、やはり神の御業だな。エッヘン(御業の語法が間違ってるとかツッコミはやめろよ)


 そして、日本へジェット機で帰国した。ジェット機・・・すごいな。驚いたよ。龍とか、ククルカンとか、空飛ぶ生き物には、いろいろ乗ったが、まさか人間が空方面にまで進出してたなんて、それにあのスピード、速っ!本当にビックリだよ。で、話を戻す。

 神森教授は、空港でこの僧侶と落ち合うや、顯を置き去りにして(とん)(そう)した。遁走っていったが、外せない学会発表の当日で、大急ぎで都内の会場へ行くためだった。しかし、いくら母親の兄で身内だといっても、私は全然知らない人なんだ。困ったな。顯の魂魄は、もう砂粒ほどの大きさしかないんだ。本人に話をさせるなんて無理だな。だが、本人の心がまだ残っている以上、私は見守ることしかできない。で、何を話していいか分からず、睨み合いみたいになったわけだ。


「顯君、堂明寺のおじさんだよ。覚えているかい?」

 (どう)(みょう)() (てつ)(ひろ)は、目の前の小さな男の子に恐る恐る声をかけた。妹婿だった神森と落ち着いた所で話合って、顯君にもよく説明して、京都のお寺へ連れて帰るつもりだった。ところが、またまた神森ときたらスケジュール管理に失敗して、学会発表と待ち合わせ時間をニアミスさせてしまった。そのため、碌に話もしないうちに、空港を飛び出して行ってしまった。

(まったく、あの男は、いっつもスケジュール管理がちゃんとできない・・・)

 甥の顯とは、中南米へ行く前、二歳ごろにあったきりなので、覚えているはずもない。他人同然の自分と二人きりにされて、どんなに不安だろうかと、可哀想になった。で、自分の大きな手で、顯の小さな手を取り、そっと握ってやり、寺から出発する直前、妻から受けたアドバイス、『子供の目線の高さでお話しするのよ』に従い、大きな体でしゃがみ込み、顯の目の高さまで視線を下げて言った。

「お父さんは、今日と明日は、大学の用事なんだよ。お前のお母さんは、今日の夕方帰ってくるから、私の家へ戻って一緒に待っていよう。いいね」

 表情を変えないまま、顯は無言で頷いた。


(母親か・・・・)

 帰国前に、夢の世界から神森教授の心の中へ侵入し、家族関係に関する知識を吸収した。帰国した後、顯を円滑に家族へ預け、自身はセノーテへ帰るために、あらかじめ家族関係を押さえておくためだ。それで分かったことは、顯の父:(しげる)と、母:和歌子は、あの事件の一年後に離婚していたこと。精神的なショックも回復しないうちに離婚した教授の記憶はひどく混乱していて、顯の母親の人となりを把握するのはひどく困難であること。そのため、実際に会ってみて、対応を考えるしかなさそうだった。どちらにしても、この子供の魂魄は、もうそれほど長く保てそうにもなかった。せめて母親とお別れするくらいの時間が作られればいいのだがと、その時は能天気に考えていた。

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