14 御老公と露頭の迷龍(5)
その夜、夢を見た。変な夢だった。
晴天の大空に、ゆきえ伯母さんの作った飛竜頭がふわふわと浮いていて、その上から、「ワカー」「ワカー」と、大劫以来会ったことのない黒龍の声がした。空を見上げると、飛竜頭の上に、孫悟空みたいなのが乗っている。顔は、ぼやけてよく見えない。けれど、それが彼だということは分かった。
「何をしてるんだー」と、私は下から叫んだ。
「今、生まれましたから、受け取ってくださーい」と、私の方へ、彼が飛竜頭の上から何かを投げ落とした。私は、慌てて落ちて来る何かへ駆け寄り受け止めた。それは、ラグビーボール大の、薄緑色の卵だった。私が抱き止めるや、ひび割れて中からチビ龍が一頭飛び出した。
「ワカ、育ててやってくださいねぇぇぇー」
「ええぇぇっ!」と、私は、背中がのけぞるほど驚いた。
龍の赤子を残して、飛竜頭に乗った彼は空の彼方へ消え去った。
「・・・・・・飛竜頭に卵、龍の赤ちゃん???」
目が醒めた後も、訳のわからない夢のせいで、その日は、一日中ぼうっとしていた。光一にまで、気の毒そうに、
「もう六月なのに、今頃五月病なのか」と、見当外れなことを言われる始末だ。
夕方、大学を出ると、やはりダーキニーが待っていた。今日も、また、結論の出ない話し合いをするのかと思うとげんなりする。と、そこへ、ずっと海雲寺を不在だった観音菩薩から、念話が入った。
“顯くん、そのまま、青華寺へ来てちょうだい。わたくし、あなたに、引き合わせたい客人を連れてきているの。海雲寺は、今、哲文が帰ってきているから、青華寺で会ってもらいたいの”
“わかりました”
客人?はて、一体誰だろう。
青華寺は、階段を上がった高台にある。
「顯、観音菩薩がいるよ。それに、怖そうな爺いが一緒にいる」
人間の私より遠目の効くダーキニーが、百メートル手前でもう警戒し始めた。観音菩薩が、海雲寺から出て来るのさえ滅多にないことなのに、客人まで連れてくるとなると、誰だって警戒するだろう。段々近寄ると、客人の姿が見えてきた。
第一印象は、爺いになった宮本武蔵・・・いや塚原卜伝かな?爺さんには、どことなく武人の雰囲気があった。いやに目つきが鋭く、こちらの方へやたらと視線を飛ばして来る
「何、あの爺い、顯の顔ばっかり見てるよ」
「・・・・・」
あんな、強面の爺さんは知り合いにはいないはずだが・・・と、考えているうちに、爺さんの眸が金色であることに気がついた。
「えっ、まさか・・・」
背筋に電流が走った。階段の下で、固まったまま、爺さんの顔を見上げ、
「黒龍なのか」と囁いた。
爺さんもビクッと体が強張った。そして、
「ワカ、ワカでいらっしゃるのか・・・ワカーァァァっ」と、絶叫し、駆け降りてきた。




