14 御老公と露頭の迷龍(4)
「筋をひっこ抜かれて、動けなくなり、露頭の中に隠れてしまったそうじゃ」
白髯を撫で付けながら、爺ちゃん神様は、締め括った。
「では、ずっと動けないまま、飛龍頭山に・・・でも、私、龍の気配をあの山で感じたことはありませんよ。それはまあ確かに、禁足地にするだけの霊気に満ちた場所としては知っていましたけれど」
律子さんは、不思議そうに言った。だが、別に不思議でもなんでもない、筋を抜かれるなんて、龍にしたら重傷だ。深い眠りについたに違いない。けれど、今、傷の具合はどうなんだろう。抜かれた筋って、再生できるのだろうか?昔、龍にはよく乗せてもらったから、他人事とは思えない。今すぐにでも様子を見にいきたいけれど、ただ今神力枯渇中で、露頭の中なんか調べる術がないし、出かけていってもただの凡人だから、怒った龍から水でもぶっかけられかねない。
でも、やっぱり見にいきたいなあ。
あっ、そうだ。話は変わるけれど、さっきから「龍」「龍」って言っているけれど、「竜」じゃないからね。えっ、一緒じゃないかって?ブルブルっ(激しく首ふり)、違うんだ。「竜」は翼があって、そのままドスンと地面へ着陸できる。「龍」は、翼がない。空中、水中では浮いてる。地面へ、そのままの姿で降りることはない。人形に転身するか、できなければ、主に岩、たまに山へ同化するのもいる。飛龍頭山の龍も、筋を抜かれて転身が保てなくなり、露頭の巨岩と同化してしまったのだろう。治療してやりたいけれど、今、私自身が神力枯渇で、治療してほしいくらいだから、当分無理だな。けれど、梨香からの頼みがあるし、どうしたらいいだろう。頭が痛い。
結局、結論が出ないまま解散になった。その晩、海雲寺の食卓には、根菜と飛竜頭の焚き合わせが出た。思わず、飛竜頭をしげしげと見入ってしまったよ。飛竜頭って何だって?東の方では、がんもどきっていってるあれだよ。うちのは、ゆきえ伯母さんが、豆腐をすり鉢ですりつぶして、具を入れて油で揚げた手作りだから、美味しいんだ。で、ぼうっとそんな事を考えていたら、横から哲文に食べるのに集中しろって怒られた。
「どうしたんだ。さっきからぼうっとしているぞ。悩み事なら、相談に乗るぞ」
伯父さんとよく似たきりっとした眉に、白目と黒目がくっきりとした綺麗な目で、生真面目にそう言われても、まさか、露頭の龍のことで悩んでます、なんて言えない。
「顯くんも年頃なんだから、いろいろ悩みくらいあるわよね」と、横からゆきえ伯母さんが声をかけてくれ、お茶のお代わりを淹れてくれた。本当に、ゆきえ伯母さんは、海雲寺の癒しです。ありがとう。
哲文は、修行に燃える熱血禅僧で、私にも口うるさい。密教僧からはこき使われ、禅僧からはお小言を頂戴する。私だって一応神なのに〜、私の立場は一体どうなってるのかと疑問に思う。早く、本山へ戻ってくれないかなあ・・・・




