14 御老公と露頭の迷龍(2)
青華寺の門前で、階段を上がり敷居を跨ごうとしたところで
「あっ」と声をあげ、ダーキニーが姿を消した。結界に触れ、実体を保てなくなったのだ。和尚は、ダーキニーの姿を見られるとまずい来客がいる時は、結界を張るのだ。
「もう、どうしてっ、和尚さんたらひどいっ」
ただし、傍で文句を言う声はしっかり聞こえるので、うるさいことに変わりはない。
和尚さんのいる和室へ入ると、そこには
「久しぶり、神森くん」
前髪は眉毛の辺りで切り揃え、後側は腰までとどくサラサラロングヘア、白いレースの飾り襟がついたブラウス姿の、色白の日本人形みたいな女の子が、座卓の向こうに座ったままで声をかけてきた。でも、この女の子、何だか見覚えが・・・
「・・・川島さん?」
すっかり大人になっているので、首を傾げながら声をかけたが正解だった。幼稚園さくら組で一緒、小学校も一緒だった川島 梨香だ。そう、その昔、あきらくんの笑い顔はあざといと、ダメ出しした、あのりかちゃんだ。中学校からは、私立へ行ってしまったので、長い間ご無沙汰していたのだ。
「久しぶり、やっぱい神森くんよね、すっごく背が高くなって、格好いいから、人違いかと思ったわ」
いや、その言葉はそちらの方にこそ、相応しいと思うよ。髪型だけが、幼稚園、小学校の頃と基本的に変わっていないので、辛うじて分かった。すっごく綺麗になっているから、人違いかもしれないかな、なんて思ったよ。(フゥゥー、人違いでなくてよかったよ)
しばらく、近況報告など当たり障りのない話をし、本題へ移った。
まず、和尚が、私を呼んだ理由を説明した。
「川島さん、神森くんには、よくお祓いや祈祷の助手を頼むので、一緒に話を聞いてもらうために来てもらった。構わんかな?」
梨香は、にこっと笑って頷いた。
「もちろんです。神森くんには、昔、よく、失くしものをみつけてもらったりしました。是非、相談に乗ってください」
和尚は、
「君の、母方の叔父さんのことで相談だと聞いたのだが」と、続きを促した。
梨香は、居住まいを正して話し始めた。
「私の母の弟は、一級建築士で、今、新築マンションの設計から施工まで手がけています。それで、洛西にある飛龍頭山の、南側の斜面に高級マンション建設プロジェクトを立ち上げました」
洛西は、北山から四キロほど西南の平坦な土地だが、ただ一ヶ所飛竜頭山というのが、標高百メートルほどの隆起した丘陵地となっていた。平地に、いきなりこんもり盛り上がった丘陵が現れるので、古墳じゃないのかと思う人も多い、しかし地質学的には「露頭」というそうだ。鉱脈や岩が地表に露出しているのを露頭というのだが、飛龍頭山は、一枚岩の巨大な露頭なのだ。
「最初のうちは、すべて順調に進んでいたんです。ところが、基礎杭を打ち出すと、雨が降ってもいないのに、翌日には工事現場が浸水していたり、作業員に次々怪我人が出て、それに少し離れた所にある染色工房からは、地下水が枯れてしまったと苦情まできてしまって、叔父はもう工事そっちのけで、トラブルの対応で疲れ切っています。このままだと、工期内に完成できないのではと、頭を抱え込んでしまって・・・」
私は、和尚と視線を交わした。私も、和尚も、頭を抱え込みたいのは、こちらの方ですと言いたい。飛龍頭山は、適当についた名前じゃない。まさしく、あれは、龍の頭なんだから。




