12 虚空蔵菩薩は大劫をかく語りき(3)
冊子の表紙には、下界でいうところのマヤ神聖文字が記されていた。その文字のいくつかは、人の顔が文字の一部として入っている。その顔の目玉が動き、覗き込んできた観音菩薩の顔をジロジロと品定めでもするみたいに見返してきた。
「何、これっ、気持ち悪っ!」
虚空蔵菩薩は、冊子を、嫌がらせみたいに観音菩薩の方へテーブル越しに押しやった。
「せっかく持ってきたんだから、もっとよく見てよ」
「だって、これ、ジロジロこっちを見てるじゃないの〜」
虚空蔵菩薩はニヤアッと笑った。
「そりゃ見るさ、だって、この記録、当人のみ閲覧可能なんだ」
「はあ?当人のみって・・・また、わけの分からないのばっかり、もうっ」
「その文字の一部に入っている顔が、当人がどうかを、判別するようだね。私も顔をジロジロ見られたよ」
「ジロジロ見られて、あなたも中身は見られなかったのね」
「そう、でもこれは、闇のバラム神がここに来れば、閲覧できるよ」
実は虚空蔵菩薩も、中身を知りたくて堪らないので、観音菩薩は何か伝てがあるのではと期待しながら言ったのだ。
「そうなの・・・じゃあ、仕方ないわね」
とうとう、観音菩薩は諦めてしまった。
(チェッ、期待してたのに・・・)
「観音菩薩は、どうして闇のバラム神って神名を知っているの?」
今度は、観音菩薩が爆弾を落とした。
「だって、今、うちのお寺に住んでいるもの」
「はあ?」と、今度は虚空蔵菩薩が目を見開き、口をあんぐり開けて驚いた。
(ププッ、虚空蔵菩薩、顔おもしろい)
観音菩薩は、拈華微笑のまま内心で吹き出していた。
「どういうことだよ、住んでるって、お寺ってどこの寺?」
観音菩薩は上界では唯一の存在だが、下界においては、合わせ鏡に無数の映像が映るように、あらゆる場所に同時に存在することができるのだ。だから、虚空蔵菩薩には、一体どこの事を言っているのか、すぐには分からないのだ。
「どこって、日の本は京都の海雲寺よ。私がご本尊の禅寺よ。そこの住職さんの妹の息子で顯くんって子がいるの。そうだっ、顯くんの記録はあるかしら?」
「うぅぅん、氏名と生年月日と両親の名前も分かれば教えてくれる?」
観音菩薩から聴き取りした虚空蔵菩薩は、またまた虚空蔵の奥へと探しに行った。そして、しばらくして「大変だ、大変だ」と叫びながら、小走りに戻ってきた。
「どうしたの?」
「これ、見て見て」
「ああ・・・・やっぱりねえ」
虚空蔵菩薩が手にする神森 顯の記録、つまり運命簿は、紅蓮業火による封緘のある禁書となっていた。
「でも、前は禁書じゃなかった。凡人の運命簿の管理担当にも確認したけれど、四歳の時に不慮の事故で死亡ってなってたはずだ。いつの間にこんな事に〜って、観音菩薩、やけに冷静じゃないか。さては、何か知ってるね」
虚空蔵菩薩の目がギラッと光った。その眼光のやばさに、
「ヒッ」と竦み上がった観音菩薩を、
「フッフッ、観音菩薩、では、その顯くんとやらの事について、あなたの知る限りのことをすべて話していただきましょうか」と、徹底的に追求し始めた。




