2 お父さんがやって来ました。(3)
お告げを受けたカルロスの傍で、神森教授は呆けた様子で立ち尽くしていた。ふと、我に返ると、いつの間にか紅い靄が消え、漆黒の闇となっていた。
「いつの間に夜になった?ここはどこだろう」
ますます不安がつのり、ホセやカルロスはどこにいるのだろうと、周囲を見回したが、自分の手さえ見えない真っ暗な闇の中だった。先ほどまで燃えていたはずの祭壇も見えないし、息苦しい煙もなくなっていた。
「アキラを探しているのだろう?」
「!」
何ものかが突然話しかけてきて、教授は身を強張らせた。先ほどの冥府の大王などとは比較にならない、何か巨大な圧力、人外の存在が目の前にいるのが分かった。けれど、それからは、敵意は感じられなかった。
「・・・そなた、恐ろしく遠方から来たのだな、道理でみつからなかったはずだ。それに、二年も待たせおってからに・・・」
「エッ?」
いきなり愚痴のような言葉を聞かされ、教授の中から恐怖が消え去った。
「フーッ、よいか、今から、アキラの居場所を教える。今の世の地名などよく分からぬから、アキラがいる村の景色を見せる、それを手がかりに早く迎えに来い、よいなっ」
返事もしないうちに、教授の頭の中へ、映像が流れ込んできた。
闇バラム神は、本当なら、この父親をすぐさま息子のもとへ連れていきたかった。自身が眠りにつく前の時代なら間違いなく実行して、この厄介事に決着をつけていただろう。しかし、二年の間、それなりに現代社会のルールを学んだので、さすがにそれをすると、大騒ぎになるだろうと理解していた。なので仕方なく、映像を流し込み、父親の方から迎えに来させることにした。幸い、アキラのいる現在地は、風光明媚な観光名所なので、映像さえ見せておけば、あとは自力で辿りつくだろうという、実に能天気な計画だった。
上空を飛ぶ鳥の目を借りた映像は、青く澄んだ湖と、その畔に連なる二つの成層火山だった。そこから、もっと小さな鳥の視点に切り替わり、その湖畔の傾斜地の村、石造の瀟洒な家が現れた。そこには、蔓薔薇のアーチのある中庭があり、そこでぼんやり空を見上げる小さな男の子ー
「顯っ!」
教授は叫んで、手を伸ばしかけ、そのまま意識を失った。
「早く参るのだぞ」
意識が落ちる途中、声が最後に響いた。