10 決死の神上げ(2)
ミヌメの話は終わった。一万年続く祭祀はなくとも、一万年以上生きながらえた地上の神は存在した。それが、私の過去の行いが発端だったとは・・・律子さんに、偉そうに言った顯の後頭部を、ペシッと叩いてやりたい。
(女神が絡むと、どうして、いつも、いつも、こんな事になるんだ〜)
本当に、もう泣きたい気分だ。昔の体があったら、ボロボロ大泣きしていたかもしれない。しかし、そんな事を嘆いている場合ではなかった。
「ワカミアヤ、あたしはもうすぐ消えるんでしょ?」
「ミヌメ・・・」
ミヌメは、今度は私の口周りの猫髭をツンツンし、マズルのあたりを撫で回した。
(もうっ、どうしてそんな所ばかり触る〜)
「あたしは、ちゃんとワカミアヤに会えたから、もうここにいる理由はなくなった。会えたから、それでいいの。ワカミアヤのことを覚えているものがいるって、分かってもらえたからいいの。だから・・・消えてしまってもいいの」
私の胸元に抱きつき頬擦りしながら、ミヌメは言った。けれど、これほどの年月、待ち続けた女神を、ただ無に返すなんて、それは・・・
「ミヌメ、お姉ちゃんの事は覚えているよね。第三王子の黒い龍の事も覚えているよね」
「うん、覚えてるよ。はっきり覚えている。ワカミアヤの事と同じくらいはっきり覚えているよ」
やってみるしかないだろう。ただ、問題は、常夜を統べる闇の神からの神上げを天龍界のものが受け入れるかどうかだ。姉であるミユメの情と、黒い龍の情けに賭けるしかない。それと、私の力が保つかどうか・・・気合いで頑張れ、保てるかどうかじゃない、保たすんだっ!
私は覚悟を決め、ミヌメへ言い聞かした。
「神上げをする。ミヌメは、お姉ちゃんへ呼びかけろ、私を信じて、呼びかけるんだ。天龍界の扉を開けて迎え入れてもらうんだ」
「でも、そんな事をしたら・・・」
「私を信じて・・・ずっと信じていてくれたんだから、最後まで信じていてくれるよね」
我ながら狡い言い方だとは思うが、神上げを成功させるためには仕方ない。今この状態から行う神上げは、上古の時代と異なり、リスクが大きい。成功の鍵は、ミヌメと姉ミユメの繋がりの強さだった。
一寸考えて、ミヌメは大きく頷いた。
「分かった。あたしはワカミアヤを信じている。言われたとおり、お姉ちゃんを呼び続けます」
私は常夜の国の扉を開け放ち、ミヌメをありったけの神力でもって、上天の世界へ上昇させた。
「天龍界よ、上古の縁に免じ、闇のバラム神よりの神上げを受け入れよ」
後は、天龍界が大門の扉を開けてミヌメを受け入れるまで、私の力が続く限り、この状態を保つしかない。ただ、いつまで保てるか、もう神上げ十回の神威どころか、一回だって本当は心許ないのだ。それに、闇のバラム神と聞いて、天龍界が素直に扉を開くとも思えない。
沼の水面から、突如白光の柱が現れ、天空へとつながった。
「ええっ、UFOかあ?」
障壁の中で光一は腰を抜かした。
「あの柱は、神柱か?」
島本教授は、眩い柱を直視できず、目を瞑った。
柱の真ん中を、一頭の蝶々がひらひらと天へ昇っていった。




