2 お父さんがやって来ました。(2)
「・・・・・・!!」
教授は、今、目の前にあるものが、現実とは思えなかった。香炉から立ち上る煙が、紅い靄によって吹き飛ばされた。周囲の温度が急激に下がり、凍えたのか、恐怖なのか、体が勝手に震え始めた。
ホセは、祭壇の前で膝をつき両手を上げて叩頭すると、恭しい態度で言った。
「冥府の王様、この二人の哀れな男の願いをお聞きとどけください」
ホセの後で、カルロスが帽子を脱いで膝をつき、同じように両手を上げ叩頭した。
「私の妻、ベリンダは、二年前に冥府へ参っております。どうか、ベリンダが冥府で不自由なく暮らせるよう、格別のご配慮をお願い申し上げます」
ホセが、チラッと教授を振り返った。教授は、ホセに睨まれた瞬間、操り人形みたいにギクシャクした動きで、カルロスと同じく帽子を脱ぎ、両手を挙げて叩頭した。
「私は・・・私は、息子を探しています。息子をみつけてください」
と言い終わるや、突然紅い靄の中から、「ケケーッ」と叫びを上げ、先ほど締めたはずの鶏が飛び出し、教授の手へ飛びかかり引っ掻いた。
「あっ痛っ」
教授は手を庇いながら、後へひっくり返った。教授の手から、血が一滴飛び、紅い靄へ吸い込まれた。
「見つけた。おまえが父親かっ」
「ギャっ、闇バラム様、エッ、どうしてこちらへ・・・てかっ、闇バラム様、蘇られたのですね」
シバルバーの冥府の王は、突然現れた上位神の気配に、腰を抜かすほど驚き、ふん反りかえっていた玉座から、地上の教授と同じようにひっくり返って転げ落ちた。
「蘇る?フンッ、寝ていただけだ。それより、フンカメーよ。カルロスとやらに、早くお告げをしてやれ、あの、カンモリとかいう外人には、私が返事をする」
フンカメーは、太鼓腹をさすりながら、がっかりして言った。
「では、捧げ物は、闇バラム様と半分こずつということですね」
「捧げ物?そんな物は要らない。おまえの好きにすればよい。だが、ベリンダとかいうカルロスの妻の事は、おまえが責任をもって差配しろ。私が用のあるのは、もう一人の男だけだ。さっさとお告げをしてやれ」
「さようですか。そういう事でしたら、すぐお告げします。はい、はい」
捧げ物を独り占めできると聞いた途端、機嫌を良くしたフンカメーは、早速カルロスへお告げをした。
再び、地底の底から、重低音が響き渡った。
「カルロス、そなたの願いは聞き届けた。冥府の宮殿に、ベリンダを侍女として雇い、不自由ない暮らしをさせてやろう」
冥府の王の親切な申し出に、カルロスは感激して両目から涙を流し、もう一度叩頭した。
「ありがとうございます。冥府の王様に感謝申し上げます」