8 見沼の守る祠の祭祀(3)
翌日、早朝釣りでそれなりの釣果をあげ、昼から島本教授に従い、見沼の婆ちゃんの家を訪ねた。
(ああ憂鬱だ。見沼の婆ちゃんが何を話そうとも、ろくでもない結末が待ち受けているような気がする)
山道を登り、村の集落から離れた林の前の空き地に、平屋が一軒、ポツンと建っていた。瓦は白漆喰でしっかり固めてあり、石積塀も白漆喰で頑丈に固めてある。岩戸さんによると、婆ちゃんは、二十年ほど前、東京からここへ来て、それ以来ずっと一人暮らしをしているそうだ。台風恐怖症で、屋根瓦から石積塀に至るまで、婆ちゃんひとりで漆喰を塗って固めたそうだ。光一はどうしたかって?着いて来られたら鬱陶しいから、釣りの終わり頃、船酔いになるように、加護の力を抜いておいたんだ。フフッ、今頃、旅館で伸びているはずだ。
「見沼さぁん」
石積塀の開いた入口から、島本教授が奥へ呼びかけた。割烹着を着た婆ちゃんが、竹箒を逆さに持って突撃をかけてきた。
「出て行けといったじゃろうっ」
またもや、天敵にあった猫みたいな剣幕だ。
「顯くん、顔見せてやって、頼むっ」と言うなり、教授は私の両肩を引っ掴み、婆ちゃんの方へ押し出した。
(何だよっ、ついて来るだけでいいって言ったくせに、詐欺だっ)
竹箒なんかで叩かれては堪らないから、私は取っておきの笑顔を見せて、婆ちゃんへ声をかけた。
「こんにちは、見沼さん」
「・・・・・」
婆ちゃんは、またもや固まった。目も口をあんぐり開け、私を見上げた。それから急にもじもじし出した。
「来てくれたんか、そうか、ワカミアヤ、来てくれたんか」
またしても「ワカミアヤ」、私は強張りそうになる顔を必死で緩め、にこやかに頷いた。そして、もうどうにでもなれ、島本教授の目的をさっさっと達成させてしまおうと思った。それで、打ち合わせてもいないのに、作り話を始めた。
「婆ちゃん、この島本先生はね、私が師事している、文化人類学っていうのを研究している偉い学者さんなんだよ。妹島の祭祀について、研究したいからって、わざわさ本土の方から来てくれたんだよ」と、教授を紹介した。
「・・・祭祀の研究?リゾート開発に来たんじゃなかったのかい」
教授は、ブンブン頷いた。
「顯くんの言うとおり、私は祭祀の研究のために来たのです。どうか、いろいろご教示いただけないでしょうか」
教授は、私と話を合わせてくれた。
婆ちゃんは、私と教授を見比べ、
「この人は、ワカミアヤのお師匠なのか?」
「そうです」
婆ちゃんは一寸眉を顰め考え込んだ。
「分かった。それなら、家へお入り。祭祀のことを教えてあげよう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」と、島本教授は九十度体を折って挨拶した。
脱字補記




