8 見沼の守る祠の祭祀(2)
先生は、コップに残っていた焼酎のお湯割りを飲み干した。それから続けた。
「私が来たのはね、ここの祭祀がどのように行われているのか、聞き取り調査をするためで、去年から、何回か通っているんだよ。祭祀を行なっていたのは、妹島に住んでいた見沼の家の人たちでね。今は、東京に住んでいる本家の人たちとも会って話を聞いたのだが・・・四十年ほど前の台風で、妹島では大規模な山崩れが起こり、大勢の人が巻き込まれお亡くなりなった。その後東京に移ってきたので、祭祀のことを知っている人が、本家にはいないそうなんだ」
この辺りは台風の通り道だから、被害が出ることもあるだろう。四十年前なら、顯の生まれる前で、私も日の本にはいないから、ただ頷いて聞き続けた。
「祭祀は、二十年ごとに、代々女性だけで行ったそうだ。台風の被害に遭う数年前に祭祀を行なって以来、島から人がいなくなったため、途絶えたそうだ。もう詳細を知っている人はいないのだろうと諦めかけていたところへ、本家の人が、姉島の方へ戻った人がいると教えてくれたんだ」
(姉島へ戻ってきた、まさか・・・・)
教授は大きく頷いた。
「そうなんだよ、見沼の婆ちゃんが、その当人なのだ」
ああ、ダメだ、ダメだ、話の展開がますます不味くなってくる。見えない因果の網の気配がする。もう、罠にかかった野生動物の気分だった。
私はすっかり腰が引けているのに、島本教授は真剣な顔で身をずいッと乗り出してきた。
「妹島にはリゾート開発の話が持ち上がっていてね。どうやら、東京の本家の人たちが、土地を譲渡したらしいんだ。それで見沼の婆ちゃんはへそをすっかり曲げてしまって、私が、リゾート開発とは無関係なんだ。ただ、祠とその祭祀について、調査させてほしいのだと説明しても、全然信じてくれないんだよ」
「・・・・・・」
頼み事の内容が何となく推測がつくだけに、聞いてしまったら最後、引き受けざるを得なくなりそうで、何も話せない。けれど島本教授は、私の嫌がる気分など、まるで察しようともしないで、さらに話を続けた。
「それでだね」
「あっ、そうだった。明日は早朝から釣りに行くので、もう寝みます。お話は、また明日」
私はあざとい笑顔を残して立ちあがろうとした。ところが、島本教授は、私の右腕をガシッと掴んだ。
「いや、頼む、あともう少しだから、最後まで聞いてくれっ。起きられなければ、布団ごとでも船に運んであげるからっ」
いくら何でも布団ごと船には乗れないだろうと心の中でツッコミながら、因果の網がさらに絡みつくのを感じ、身震いした。
「婆ちゃんは、君に会った時、急に大人しくなって素直になっただろう。私が聞き取り調査へ行くとき、君にも同行してほしいんだ。何だか、君と行くとうまくいくような予感がするんだよ」
ああ、詰んでしまったなと思った。
「私が行っても、応じてもらえるとは限りませんよ」
「ダメ元だよ。とにかく、一緒に来てくれるだけでいいから」
「・・・・分かりました。ついて行くだけなら」
教授は、私の両腕を掴み、
「ありがとう、ありがとう、よろしく頼むよ」と言った。
私は、島本教授は、調査員が妹島に上陸した件を知っているのか気になった。
「ところで、リゾート開発って、もう始まっているのですか?」
「岩戸さんに聞いたところでは、一月ほど前に調査に入った人が怪我をしたとかで、中断しているそうだ」
やはり、邪気の件は秘匿されているようだ。




