7 御お祖島字姉島へ上陸だ(3)
「顯・・・婆ちゃんの心まで奪うとは恐ろしい奴」
光一が、私の方へ震える指先を向け、言った。
「はあ?何を馬鹿なこと言ってるんだ」
私は婆ちゃんに抱きつかれたまま、光一へ言った。
(今、何か頭の中に過ぎったような???気のせいかな・・・)
「ああっ、婆ちゃんっ、その人はお客さんだってさっきから言ってるだろっ」
側で、岩戸さんが目玉を剥き、頭を掻きむしって狼狽まくっていた。
婆ちゃんは、私のポロシャツの生地を両手でギュッと掴み、切なさそうな目で見上げ「・・・・ワカミアヤ」と、囁いた。
「エッ・・・」
心臓が一拍跳ねた。それは、失われた上古の言葉。いや、聞き間違えたのだろうと思い直し、婆ちゃんへ声をかけた。
「お婆ちゃん、僕たち二人は、高校を卒業したので、記念に旅行に来たんです。ここはとても美しい場所ですね。来られて嬉しいです」
私は、最近すっかり使わなくなったあざとい笑顔を見せて、老婆の機嫌をとった。
「・・・そうか、旅行に来たのか。楽しんで帰りなさい」
憑き物が落ちたみたいに大人しくなり、婆ちゃんは回れ右すると幟を拾いあげ、護岸の方へ戻ってしまった。
送迎車の駐車場所へ行きながら、私の後から、光一と島本教授がおしゃべりしているのが聞こえてきた。
「彼、凄いな。あのお婆ちゃん、機嫌をすっかり直したじゃないか」
「そうでしょ、そうでしょ、いつもは無愛想なんですけど、どんなに揉め事があっても、顯がちょっと口きいてニコッと笑うと、どういう訳か話がまとまって、皆んな納得しちゃうんです」
「へえ、そうかい。それはもう特殊能力だね」
光一の調子のいいのは今に始まったことではないが、どうして、大学教授ともあろうお人がそんな与太話に感心するのだろう。聞いているこちらの方が恥ずかしくなってくる。
「顯は、俺の守り本尊みたいなものなんですよ」
「守り本尊か、それは頼もしいねえ」
守り本尊だなんて、お願いだからやめてくれ、また、大日如来の会へ入れと観音菩薩から粘り強く勧誘されてしまう。私は、あくまで上位神なんだぞ。
しかし光一の与太話の影響は、私の想像の斜め上を行った。島本教授は、すっかり本気にしてしまい、この後とんでもない頼み事をしてきたのだ。




