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一万年サボろうと思っていたら、人仕事押し付けられた神様です。  作者: nanoky


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6 律子さん、顯に卒業旅行を命ず(1)

 あれから十数年、顯は大学受験を終え、高校の卒業式も終え、今春から晴れて大学へ入学予定だ。

「顯、見ろ見ろ、『のんびりholiday離島の旅』っていうパンフレットをもらってきた。この島なんかいいだろ?フェリー航路から外れているけれど、悪石島の港まで迎えが来てくれるって」


 海雲寺に押しかけてきて、私の前に旅行代理店のパンフレットを開き、散歩へ連れっていってくれるのを今か今かと待っている柴犬みたいな若者は、()(らん) (こう)(いち)という。彼とは、小、中、高となぜか縁が切れず、私の親友ということになっている。光一は、いわゆる公家顔(色白、瓜実、すっとひいた眉と糸のように細い目、唇も面相筆で、チョチョッと色をつけたような上品さ)で、ヒョロっとして、どこから見ても『ええとこの坊(良家のご子息)』にしか見えない。

(どうして光一は、いつもいつも、呼び出してもいないのに、ここへ来るのだろう)

 小、中、高校へ通った十二年間、私は、子供らしくて可愛い路線から方向転換し、異質であることを隠さなくなった。私の発言や行動が余りに周囲と異なり浮きまくったため、不気味がって近寄る者も減った。外見は人間でも、中身は一万年惰眠しようなんて思う厚かましい神だ。友人をつくる必要も感じなかったし、孤独が辛くないかと訊かれても、そもそも孤独って何?という感覚だった。どうにかしようとする教師もいたが、私の両親は、どちらも超個性的な変わり者だし、常識人の伯父さんは、私が「()()()()()()()」であると知っているので、ただ見守るだけだった。だから、私は友人を持たない方針で通してきた。それがどういう訳か、ずっと食らいついて来て離れない子供がひとりいた。スッポン並みの執念で、私の変わり者ぶりにも怯まず、ずっと親友だ、親友だ、と主張し続けてきたのが、光一だった。

 私は、光一が来る前から読んでいるエジプト神話の本から目を上げないまま

 「ふうん、楽しそうだね、いってらっしゃい」と、言った。

 私の返事に、光一は、根本から毛先までを栗色から金髪へグラデーションに染め、ご丁寧に仕上げにパーマを当てた似合わない巻毛を掻き上げながら、狐目を珍しくも大きく見開いた。

「おまえも一緒に行くのに決まってるだろっ。何のためにパンフレット持ってきたと思ってるんだよ」

 「卒業したら、大学が始まるまで、アルバイトをするから旅行は行かないよ」

 私はにべもなく断った。

 ちなみに光一は、私の受験勉強にくらいつき、自身の偏差値を怒涛の追い込みで爆上げして同じ大学に合格した。(その根性だけは、評価してもいいと思う)

 「バイトなんか、後からいくらでもできるだろう、なあ、卒業旅行に行けるのは今だけやん、卒業ってついたら、旅行割引が大きいねん。それにこれ、(さい)(しょう)(さい)(こう)人数は二名様からなんや」

 (旅行割引、それに最小催行人数・・・なるほど、それが狙いか)

 しかし、ここでふと気になった。

(光一って、離島なんかに興味あったかな・・・)

「光一、離島なんか行って、現地で何をするつもりなんだ?」

 本を読み続けたままの私から、いきなり尋ねられた光一はキョトンとした。

「へっ?何って、そら、景色を見たり、おいしい空気を味わったり、森林浴したり・・・」

(景色を見る?おいしい空気を味わう?森林浴?おかしい・・・絶対おかしい、そんなの光一の趣味じゃない。RPG狂で、地下アイドルのメルモ&ピノコの追っかけをしている光一に、そんな趣味も嗜好もないはずだ・・・)

 そこへ観音菩薩から念話で伝言が届いた。

“坊、律子さんから、青華寺へ来てちょうだいって連絡がありましたよ”

“ありがとう、彼が帰ったら行ってきます”

 私は本から目を上げ、光一へ言った。

「分かった。返事は一日待ってくれる?伯父さんに、行って来てもいいか聞くから」

 光一は、目をキラキラ光らせた。

「そうか、危ない場所違うから、これ丸印いれておくから、伯父さんと一緒に見てみてな」と言い、嬉しそうに帰った。


 目的を達したい神は、えてして()(えん)で難解な因果の網を張り巡らし、相手をがんじがらめにして従わせようとする。けれど律子さんのやり方は、意外と雑で分かりやすい。神の御業といっても色々なのだ。

「お久しぶりね、顯くん、大学合格おめでとう」

 青華寺で待っていた律子さんは、にこやかに笑うと、合格祝いの祝儀袋をくれた。

「・・・・・」

(もらっていいのかな・・・・後が怖いよ)

 今日も和服をきっちり着こなし、隙のない身なりで、律子さんは、大きくなった顯を見上げた。(ちなみに、私の身長は百八十センチを越えた)

「遠慮なんかしないで、もらってちょうだい。それは、私と、降三世明王、それにダーキニーと、(ほむら)()(てり)からよ」

「はい、ありがとうございます」

 両手でありがたく押し頂いたけれど、皆、この祝い金をどこから調達してきたのかが気になった。(まさか、お賽銭・・・?)藪蛇になるから聞かないでおこう。

 エッ、焔火照って誰かって? ほら、爺ちゃん神さまだよ。

 和室に入り、傍に置いてあった急須から煎茶を入れ、律子さんへ勧めた。私も、湯呑み茶碗から一口飲んだ。

「ところで、顯くん、ちょっとアルバイトしない?」

 (ほら来た来た、やっぱり律子さんの仕掛けだった)


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