35 ジンの洞窟(2)
私は、アテナを見て
「もう一回、神気を送り続けてもらってもいいかな?」と、尋ねてみた。
アテナは、「あの程度の神気なら、一ヶ月ぶっ通しでも平気だ」と、頼もしく請け合ってくれた。
知恵の女神に知恵を借りるならともかく、燃料扱いするなんて申し訳ないが、体のためだから仕方がない。けれど、もう一つ気掛かりな事があった。私は、ヘルメスの目を見つめて尋ねた。
「ヘルメス、あなたは、どの程度の邪気までなら耐えられる?」
トフィール自身の邪気がどの程度か分からないし、わざわざこんな地底を指定してくるくらいだから、おそらくそこには、邪気が凝集しているに違いない。
ヘルメスは、肩を竦めて、にやりと笑った。
「俺は、幽冥界へも使者に立つし、汚れ切った立派な大人の男神なんだぜ。邪気なんて、全然堪えやしないさ」
汚れ切った立派な大人の男神って、どんな男神なんだ?そんなに誇らしげに言える内容なのだろうかと疑問に思いつつ、念のため追加で尋ねてみた。
「もし、実際に邪神に遭遇しても、耐えられる?」
そう、私は実際に邪神に遭遇した。神の墓場で、かつて最も愛した女神の、変わり果てた姿と遭遇した。
ヘルメスは、ごくっと喉元を鳴らした。この坊ちゃんにしか見えない上位神は、いきなり何と言う事を尋ねるのだ。まるで、実際に出会したことがあるみたいな、暗い目つきだ。一体、何を見たことがあるんだ?だが、ここで動揺したら、ヘルメス神の名が廃ると思い、にやにや顔のままで言い返した。
「さっきも言った通り、俺は、汚れ切った立派な大人の男神なんだ。たとえ、俺の母親が邪神になって現れたって、魂消たりなんかしねえよ」
「母親ねえ・・・・なら、大丈夫かな」
(なん、何だ、その表情、絶対こいつ何か隠してるぞ。こんな表情、真似するのはちょっと無理だな)
いつの間にか、ダーキニーが側へ寄ってきて、私の腕を掴まえたまま
「大丈夫だよ、ヤバくなったら、ヘルメス置いて先に逃げちゃえばいいのよ」
「ええ?そんな、俺はどうするのよ、愛しい女神さま」
ヘルメスは眉尻を下げて、情けない声を上げた。
が、ダーキニーはにべもなく言った。
「韋駄天なみの俊足なんでしょ、それくらい自力で脱出しなさいよ」
ダーキニーが言うと、問題がすごく単純で簡単に思えてくる。思わず、私もうんうんと頷いていた。
「ワカ、あなたに先に言っておきたいことがあるのよ」
ノラに話しかけられ、私は視線を向けた。
「虚の神の詳しいことは、あまり話せないのだけれど、大劫の話を、彼なら捻じ曲げて、あなたに伝えようとするかもしれない。だから、私たちが突き止めた原因について、先に知っておいた方がいいでしょう」
他の者たちも、興味をそそられたようだ。ゼウスや、ティベリウスが身じろぎした。気分が、ますます重苦しくなるのを感じながら、私はノラへ
「どうぞ、話してください」と頼んだ。