4 大地母神、律子現る (4)
お正月の三が日、初詣に行くのなら、それなりの覚悟が必要だ。と、私は、真剣に思った。と、いうのも、絵美と友達に連れていかれた菅公さんには、大鳥居の前の歩道にまで参拝客が溢れ、びっしり並んでいたからだ。
「顯くん、大丈夫?疲れたら、おんぶしてあげるからね」
優しい絵美が声をかけてくれたのへ、私はブルブルッと首をふり
「うん、ぼく、大丈夫だから、頑張ってお姉ちゃんたちと並ぶ」と、笑顔で応えた。
(和歌子さんやゆきえ伯母さんならともかく、こんな若い女の子におんぶなんかしてもらってみろ・・・ダーキニーにばれたら、絶対からまれる)
どうしたわけか、この三が日、寺の前で待ち伏せしなくなったダーキニーの影に、気の小さい私は怯えていた。
粛々と参拝行列は進んでいき、参道へ入った。
(牛?牛の銅像?牛を祀ってる?カンコウは牛なのか?)
(両側にも祠が並んでる、この神は、眷属が多いのか?)
何の知識もないまま連れてこられて、疑問ばかり増えていく。それにしても、すごい熱気だ。受験にかける人々の執念が、炎となって天まで立ち昇っている。人には見えないものが見える私には、参拝客の祈りにかける執念が、視覚化されるのだ。
(これほどの参拝客の希望に向き合っているなんて、このカンコウって神は、正真謹直、まさに神の鏡だ。一万年惰眠するつもりだった私とは雲泥の差だよ)
絵美に手を引かれ、人混みの中をのんびり進みながら、私は周囲をキョロキョロ見回していた。
(あれっ?お爺ちゃんがいる・・・)
絵美たちの並ぶ参拝の列の前方は、階段になっていて、その手前だけ少し空きができていた。そこへ、真っ白な髭が胸元まで伸びた白い道服姿のご老人が、自身の背丈より長く、先端がクルッと渦を巻く杖を片手に、ふらふらと歩いてきた。覚束ない足取りだ。
(・・・・人じゃないな)
誰も老人には気が付かず、階段を登ろうとする人が押し寄せてきて、空いた場所が狭くなってきた。老人は、参列を横切りどこかへ行こうとしているが、今にも押しつぶされそうだった。危ないなと思っていると、詰襟学生服に必勝祈願の白鉢巻をつけた参拝客が、老人に気が付かず、そのまま真正面から突進してきた。
「ワアァァッ、わしの杖が〜」
衝突寸前でよけた老人は尻餅をつき、手から杖が吹っ飛んでしまった。
(しょうがないなぁ)
私は、杖を自分の方へ引き寄せ、老人へそっと声をかけた。
「お爺ちゃん、こっちだよ。杖を取りに来て」




