4 大地母神、律子現る (2)
世界には、数えきれない町があり、人々の暮らしも様々である。人の数より羊が多い牧羊大国もあるそうな・・・しかし、この町は、絶対おかしい。
(何で、こんなにゴチャゴチャ棲んでる?ジャングルの猿より、いや、虫より多いかも・・・)
そう、最近の顯の悩み、それは、この町には到る処、小い神から精霊、物怪、妖怪の類だらけという事にあった。もちろん、ただの人間だったら、何ら支障なく暮らせるのだ。小い神や物怪に遭遇したところで、相手は体をすり抜けていくだけだ。よほどタチの悪いものでなければ、空気と同じだ。
(全部見えるし、それに一番困るのは、喋り声が聞こえてメチャクチャうるさい)
自身が管轄するセノーテのあるあの大陸なら、闇のバラム神の気配に気がついただけで、皆粛々と恭しい態度を示してきたが、ここでは、ただの子供にすぎない。
(神としては無届けだから、大きな態度は取れないしなあ・・・)
とにかく、新顔の子供に興味津々のあらゆるものたちが、話しかけてくるのだ。
(本当詮索好きだよ。どれだけ暇なんだ、なんかお役目くらいあるだろう。私の事なんか構ってないで、仕事したらどうなんだ・・・)
町の辻々には、綺麗に手入れされ、花や水を供えられた祠がある。そこに、小さな巣にぎっしり詰まった燕の雛みたいに物怪がいて、通りかかると飛び出してくる。木の上からは、烏が話しかけてくる。そして、一番厄介なのは
「あっきらーっ、お早う、今日も幼稚園行ってきたのね」
もう昼過ぎなのに、なぜか朝の挨拶をするトップレス美女。
幼稚園から帰ってきた顯へ、ダーキニーは真正面から飛びつき抱きしめた。
(ムグッ、やめろ、その胸をムニュニュ押し付けるのはやめろっ)
「もう、知らん顔してもダメよ。頬っぺが真っ赤じゃない。フフッ、本当はお姉ちゃんのこと、見えてるんでしょっ」
(ハアァ、見かけは子供でも、中身は大人なんだから破廉恥な真似はやめろよ〜)
説教したくて堪らないが、ここはあくまで知らぬ顔を通すしかない。とにかく寺の門を急いで通り抜けた。
(ここが禅寺で、本当に助かったよ)
この町には、神社、寺、教会などの神仏関係の施設が多数ある。それぞれ、管轄があるようで互いに不可侵だった。そして寺には、人間が決めた宗派の別があった。そのため、ダーキニーは、海雲寺の中へは決して入ってこなかった。
「ぼん、お帰り」
本堂の方から、観音菩薩の声が聞こえ、
「うん、ただいま」と、返事をした。
「またダーキニーが来てましたなあ」
「来るなら、もうちょっと服を着てきてもらいたいですよ」
「フフッ、ダーキニーはもともと熱帯ジャングルの女神だから、あれが正装です」
「へえ、そうなんですか。もう毎回フレンドリーな愛情表現が凄すぎて・・・」
「そろそろ、ダーキニーとお話ししてあげたらどうです?悪い子じゃありませんよ。構ってほしいから、あなたが帰ってくるのを毎日待っているのでしょう」
観音菩薩と話をしながら、顯は庫裡へ上がり、手を洗うとゆきえ伯母さんからおやつをもらった。
(どうしようか、自分自身に術をかけて、人間が見る事ができるもの以外、見えなくしてしまおうか・・・でも、それもリスクがあるよなあ)
頭を悩ませながら、和室のテレビで見ているのは、某公共放送の子ども番組だ。
子供番組なんか見て、無邪気で楽しそうだと思うかもしれない。けれど実際は、子供らしい仕草や表情を必死に学習中なのだ。
そう、この番組では、小さな子供が出演して歌ったり踊ったり体操したりする。小さな子供の動作や表情を学ぶのに好都合なのだ。
(大人には、この子らの真似をしたら受けるのに、子供同士だと、今一つ反応がよくないんだよなあ・・・今日なんか、女の子から、顯くん、それちょっとあざとすぎるわって、あざといって何なんだ???)
ダーキニーの事も含め、やはり女性問題には悩みが尽きることがなかった。




