表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/219

28 顯 完全に思い出す(4)

 やられた・・・と、思った。ノラが流し込んだのは、「(こと)()けの水」だ。神専用の自白剤だ。昔、騙されて飲まされたことがあって、用心していたのに、またやられてしまった。

 私はアテナに押さえつけられたまま、ノラが両手を空中へ伸ばし、糺神浄玻璃鏡を召喚するのを、ただ見ているしかなかった。人間の体では、どうすることもできなかったし、抵抗するどころでない事態が生じようとしていた。

 空中に現れたのは、直径が三メートルはありそうな巨大な円鏡だった。それが、過去の私が見たものを映し出していた。

「鏡よ。彼を傷つけたものを映しなさい」

 ノラが命じた。その瞬間、私の額は、尋常でない痛みに襲われ、血が流れた。

映像を見たノラは悲鳴を上げた。

「キャアー、大変だわ、アテナ、あなたの神力を、彼へ流し込んで、早くしてっ、死んでしまうわっ」

 アテナは間一髪間にあった。でも、間に合わない方がよかった。あの苦痛を人の体で味わうくらいなら、(うけい)がダメになっても、肉体から離れる方がましだった。私は、アテナから凄まじい量の神力を引きずり出していた。あれっ、どうしてこんなに、がぶ飲みするみたいに神力がするする吸収できるんだ?アテナの神力って、私のものとそっくりなんだ。苦痛を紛らわそうと、そんな事を考えた。けれど、体の方は、相当危険な状態だった。心臓が今にも止まりそうだし、頭の痛みは、煮え滾った鉛を注がれたような強さだった。どうして、そんなに痛むのか?それは、柱を支え始めた直後、私の天眼がある者に抉り出されたからだ。次に、数千年後、虚の神となった弟が、天眼を失い衰弱していた私を襲い、羽をむしり取って逃げたのだ。そこまでされたら、どんな上位神だって、神威も神体も無事で済むはずがない。私は、このあたりで意識を手放した。もう、耐えられる範囲はとっくに超えていた。


 アテナの顔色は、大理石のように真っ白になった。

「大丈夫?」 

 ステュクスに聞かれ、アテナは無言で頷いた。まだ、全身の震えが治まらない。自分は何者も恐れないと、強く自負する心がへし折れてしまった。まだ出血の続く顯の額へ手をかざし、傷を塞ごうと、必死で神力を送り込もうとしたが、顯の方がもう、受け取ろうとはしなかった。

 ステュクスは、アテナの手を取り、そっと顯の額の上から外した。

「あとは、私が手当てしておくから、あなたも休みなさい。大量に神力を持っていかれたのでしょう。これ以上は、あなたが危険だと分かっているから、彼は、あなたからはもう神力を受け取らないわ」

「でも・・・どうなっているのですか。彼は、一体何をされたの?」

「天眼を、奪われたのよ」

「天眼?」

「上位神の額の中央には、天眼がある。普段は閉じられていて外からは分からないけれど、下界の過去現在未来を見通せ、神威の拠り所と言われているのよ。それを、あの男が奪い取ったのよ」

 彼女は、ようやく、事の真相に辿り着いた。やはり、まだ裁かれるべき者が残っていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ