28 顯 完全に思い出す(4)
やられた・・・と、思った。ノラが流し込んだのは、「事分けの水」だ。神専用の自白剤だ。昔、騙されて飲まされたことがあって、用心していたのに、またやられてしまった。
私はアテナに押さえつけられたまま、ノラが両手を空中へ伸ばし、糺神浄玻璃鏡を召喚するのを、ただ見ているしかなかった。人間の体では、どうすることもできなかったし、抵抗するどころでない事態が生じようとしていた。
空中に現れたのは、直径が三メートルはありそうな巨大な円鏡だった。それが、過去の私が見たものを映し出していた。
「鏡よ。彼を傷つけたものを映しなさい」
ノラが命じた。その瞬間、私の額は、尋常でない痛みに襲われ、血が流れた。
映像を見たノラは悲鳴を上げた。
「キャアー、大変だわ、アテナ、あなたの神力を、彼へ流し込んで、早くしてっ、死んでしまうわっ」
アテナは間一髪間にあった。でも、間に合わない方がよかった。あの苦痛を人の体で味わうくらいなら、誓がダメになっても、肉体から離れる方がましだった。私は、アテナから凄まじい量の神力を引きずり出していた。あれっ、どうしてこんなに、がぶ飲みするみたいに神力がするする吸収できるんだ?アテナの神力って、私のものとそっくりなんだ。苦痛を紛らわそうと、そんな事を考えた。けれど、体の方は、相当危険な状態だった。心臓が今にも止まりそうだし、頭の痛みは、煮え滾った鉛を注がれたような強さだった。どうして、そんなに痛むのか?それは、柱を支え始めた直後、私の天眼がある者に抉り出されたからだ。次に、数千年後、虚の神となった弟が、天眼を失い衰弱していた私を襲い、羽をむしり取って逃げたのだ。そこまでされたら、どんな上位神だって、神威も神体も無事で済むはずがない。私は、このあたりで意識を手放した。もう、耐えられる範囲はとっくに超えていた。
アテナの顔色は、大理石のように真っ白になった。
「大丈夫?」
ステュクスに聞かれ、アテナは無言で頷いた。まだ、全身の震えが治まらない。自分は何者も恐れないと、強く自負する心がへし折れてしまった。まだ出血の続く顯の額へ手をかざし、傷を塞ごうと、必死で神力を送り込もうとしたが、顯の方がもう、受け取ろうとはしなかった。
ステュクスは、アテナの手を取り、そっと顯の額の上から外した。
「あとは、私が手当てしておくから、あなたも休みなさい。大量に神力を持っていかれたのでしょう。これ以上は、あなたが危険だと分かっているから、彼は、あなたからはもう神力を受け取らないわ」
「でも・・・どうなっているのですか。彼は、一体何をされたの?」
「天眼を、奪われたのよ」
「天眼?」
「上位神の額の中央には、天眼がある。普段は閉じられていて外からは分からないけれど、下界の過去現在未来を見通せ、神威の拠り所と言われているのよ。それを、あの男が奪い取ったのよ」
彼女は、ようやく、事の真相に辿り着いた。やはり、まだ裁かれるべき者が残っていたのだ。