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28 顯 完全に思い出す(1)

 そう言えば、前から不思議に思っていたのに、聞き忘れていたことがあった。

「そもそも、ヘラも、君も、どうして私のところへ来たんだ?誰から教えてもらったの?」

 今さらと思いながらも、アテナへ尋ねた。

「それは・・・」

 言い淀むアテナの隣で、ステュクスが頭を振った。

「ワカミアヤは、先日、神の墓場へ出かけたでしょう」

 私は、表情が強張った。どうして、そんな事を知っている?虚空蔵から一気に飛んだから、誰にも気づかれないと思っていたのに・・・

 ステュクスは、私を見ながら、

「神の墓場は、今、私が管轄する場所です。侵入者があれば気がつくし、ワカミアヤは、あそこからイツァムナ神の原身を連れて帰ったでしょう」

 私は、ようやく彼女が何者なのかを思い出した。

「あなたは、(きゅう)(じん)(じょう)()()(きょう)の審問長官であったノラなのか?」

 ステュクスは嬉しそうに微笑んだ。

「やっと思い出してくださいましたか。そう、私は、上古の時代、糺神浄玻璃鏡の審問長官を務めたノラです」

 と言う事は、あのハデスは、多分、糺神浄玻璃鏡の元総裁・・・・ううぅぅ、また眩暈がしそうになった。

道理で、ヘラが天界の事情に詳しかったはずだ。しかし、糺神浄玻璃鏡の審問長官が、私を名指しで呼びつけるなんて、もう嫌な予感しかしない。私は、また、何かやらかしたのだろうか?

 ノラは、茶器にお茶を淹れ、私に勧めてくれた。けれど、彼女がノラだと分かった以上、ここのものは一切口にしようとは思わなくなった。

「私は、灌奠水を受け取ってオリュンポスへ届けるために来ただけなのですから、さっさと帰らせてください。凡人の身では、タルタロスの毒気は耐え難いのです」

 私の中で、警報が鳴り響いていた。糺神浄玻璃鏡の審問長官を相手にするくらいなら、滝行を半年続ける方がはるかにましだ。審判を下すためなら、彼女はどんな些細な事でも調べつくすのだ。そんな相手に徹底的に調べられたら、もう、私の平常心なんて吹き飛ぶどころか、丸裸にされてしまうだろう。

 ノラは椅子から立ち上がると、茶器を持ったまま、私の側まで近寄り、長椅子の、私の隣に腰掛けた。そして、

「あなたは、そもそも疑問に思わなかったのですか」と尋ねた。

疑問って、何を疑問に思うのだ。無反応な私を見て、ノラはため息をついた。

「いくら、天界の基壇を支える柱が折れたために、数千年間、代わりに支えたからといって、あなたは、なぜそこまで神威を損ない、神体まで失ったのですか。ご自身で、おかしいとは思わないのですか」

 「・・・・・・」

 ノラの言うことは、道理に合っていた。あえて考えにないようにしてきたが、柱を支えていただけで、(あれは確かに超々重労働ではあったけれど、)そこまで神威を損ない、神体を失うほどのものだったのだろうか・・・けれど、私は何も覚えていない。それは、もう、終わったことだ。

「あなたは、思い出すこと自体を恐れておいでなのではありませんか?」

 ノラの率直な問いかけに私の心臓が一拍跳ねた。

 私は、恐れているのだろうか・・・一体、何を恐れているのだろう。

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