1 セノーテで叩き起こされました!2025/04/20 17:19
とある中南米の国(たぶんユカタン半島の近所)のセノーテ(泉)で眠っていた神さまが、叩き起こされて、いろいろわちゃわちゃ巻き込まれてしまう話です。設定は、現実の世界とちょっとずれた平行世界かな?と、緩い設定でとりあえずいく予定。神さまとか、他いろいろ出てくるかな?神話好きな人や、氷河期には、文明ってあったのかな?とか興味がある人、読んでほしいです。
深い水底、ここはセノーテ、石灰質の大地が、縦穴型に陥没してできた泉だ。白い石灰質の地面へ、透き通る水越しに、遥か遠い空から熱帯の日差しがとどく静寂の世界、その静けさが気に入って、私は役目をさぼり、惰眠に勤しんでいた。自分の予定では、一万年くらいそうするつもりだった。それなのに、今日この大厄日に、突然叩き起こされたのだ。
「バシャーン」
水音に不機嫌に目を開け、不法投棄(勝手な生贄投棄)は迷惑だとばかり、天を見上げた。青い水中に、薄暗い靄のように広がるのは血液だった。誰か、とても小さい誰かが、沈んできた。
「・・・・子供か?」
水底へ沈んできたのは、小さな子供だった。首の辺りにひどい怪我、刃物で切られていた。すぐさま、なけなしの力で、子供を包み込み、自分の方へ引き寄せた。
「???何が起こった、生贄の儀式なんて、流行遅れだろ?」
今がいつかは分からないけれど、あの馬鹿げた儀式はとうの昔に廃れたはずだ。それなのに、どうして、生贄?しかも幼い子供が投げ込まれたのか・・・子供を水底近くの水中洞窟へ安置して、久しぶりに水上へ出た。
「ギヤーッ」
水面から視線を岸辺へ向けると、ちょうど、護衛を任せるジャガーが男に襲いかかっていた。ジャガーは、カイマン鰐の頭蓋骨さえ、ひと咬みで破壊する猛獣だ。人間が襲われたらひとたまりもない。ましてそのジャガーは、守護の力を付与された聖獣だ。岸辺には、もうすでに三人の死体があった。
「アチァ、やってしまったか・・・」
長年、守護聖獣としてよく勤めてくれたジャガーだが、人を殺した以上、もう役目から解放するしかない。人の血を知ったジャガーは、自然へ帰さなければ、魔獣と化してしまう。野生の状態から守護聖獣にまで育てるのは、ものすごく面倒くさいのだが、こうなっては仕方がない。
「まったく、何てことをしてくれたんだ、この馬鹿者めら」
後から知ったところでは、彼らはゲリラ兵で、政府軍と交戦後、バスジャックで乗客を人質にして逃亡、再び銃撃戦となり、バスを乗り捨て、小さな子供ひとりを人質にしてジャングルへ逃げ込み、もう不要だとばかり、セノーテへ昔の生贄よろしく投げ込んだのだ。だが、ここは、本物の聖なる泉、守護聖獣が守る、神が眠るセノーテだった。こんな所へ、生贄よろしく人を投げ込み、鮮血が流れ出て無事ですむはずがないのだ。
「さて、どうしたものか・・・」
私は、瀕死の重傷を負う子供を見た。傷口に弱い光を当てて、塞いでやった。けれど、一体この子は何歳だ?四歳くらいか?
もう、魂魄がひどく弱ってしまっていて、今にも散ってしまいそうだ。セノーテの周囲を遠見し、親らしき者はいないかと探したが、見当たらなかった。
「この馬鹿者ども、無責任に子供を捨ておってから、私に面倒みろってか?自分達だけ、さっさとあの世へ行くなんて勝手すぎるだろっ!」
ブツブツ文句を言うが、もうどうしようもない。魂魄の散逸を防ぐことに集中しつつ、修復作業をしたために、力が今にも底をつきそうになった。一万年は無理だったが、結構長い時間眠っていたため、力がすっかり無くなっていた。しばらくは、泉の中で養生し、力を蓄えなければならない。力を取り戻せば、遠見の範囲を広げ、この子の親を見つけて、亡くなる前に、送り届けてやるくらいのことはできるだろう。私はヨロヨロと泉の底へと戻った。
後悔先に立たず、自分の見通しが甘いのは、今に始まったことではないが、またもや、やってしまった。
「どうして見つからない・・・もう限界いっぱいまで遠見の範囲を広げたのに、どうして見つからない、どうしてだあぁぁぁ・・・・」
頭があったら、掻きむしりたいところだが、あいにく事情があって、私には実体がない。幽霊みたいな状態なのだ。
頭上の熱帯雨林は雨季に入ったらしく、雷鳴や雨音がセノーテの中にいてさえ、頻繁に聞き取れた。今まで、そんな季節の移ろいなど、惰眠中の私が気にすることはなかった。しかし、乾季から雨季真っ盛りに入ったのだから、子供がここへ来てから、相当日にちが過ぎたということだ。何十日と経った今になっても、子供の親は見つからなかった。数カ国に跨る範囲にまで遠見を広げても成果なし。
セノーテの水底から少し上にある、石灰質の崖にある横穴へ行き、子供の様子を見た。毎日見に来るのだが、そもそも水中は、子供の体を置いておくべき場所ではない。日が当たり、爽やかな風の中、子供は駆け回っているものだ。けれど、この子の魂魄は、残酷な仕打ちで粉々に散るところを、私の力で辛うじて一つに保っている状態だ。体の方も、状態が悪化しないよう努力はしているが、もう水中では限界だった。そろそろ体を地上へ出してやらなければと考えた。しかし体を出すとなると、魂魄がこの状態では、私が付いていき、体を動かしてやらねばならない。さて、どうしたものだろう。
私は遠見を行い、遥か離れた地、二つの火山の麓にある美しい湖の畔に住む、とあるマヤの大王の末裔を見つけ出し、そこへ子供を連れていくことにした。強大な権力者であった大王の子孫は、どうやら今でもご先祖の豪胆な気性を受け継いでいるようだから、少しくらい訳ありの子供でも世話くらいはしてくれるだろう。と、またもや、見通しの甘いまま、私は子供をつれ、彼の住む湖畔の街へ移動した。