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ハジメテ

「ピピピピ...ピピピピ....ピピピ....」


もし仮に、もし仮にもう一度やり直すことができるとしたら、俺は何を変えようとしたのだろうか?

今の状態よりましになってくれるだろうか。否、きっと変わらずこの憂鬱を繰り返してしまうに違いない。きっと、何も変えられないし、何も変わらない。流れゆくままに進んでいくのだ。


静寂を切り裂くように鳴り響くアラーム音を止めるためにスマホへ手を伸ばす。

途端、俺の視界に入ったものが一気に脳を叩き起こした。


「はぁーーー」

これを見るとさすがに気が滅入ってしまう。昨日からわかっていたことだが....

一昨日のメールから翌日の昨日、日時場祖を指定されたメールが送信されて来てしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


柳川 治希様


この度はご応募いただきありがとうございます。

つきましては、日時と場所を下記に記載しておりますのでご確認のほどよろしくお願いします。


6月8日(土) 8:00集合 ※時間厳守


守野商店街 入り口付近の中村カードショップ 


何かご不明な点などありましたら、お気軽にお知らせください。


谷川

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


集合場所は最寄りの駅から電車で行けば問題ない。それに駅で琉太と待ち合わせをすることになっているから、そこからは比較的楽に行くことができる。実は、琉太は昔から異常なほどの土地勘を持ち合わせているからだ。


そんなこんな考えながら、体を起こして出かけるための支度をすることにした。




朝の支度を終わらせ玄関へ向かうと、スマホに一軒の通知が来ていた。


「俺、今から家出るわ」

みると、琉太からの連絡だった。適当な返事を返して俺も家を出ていくことにした。


駅までは少し距離があるので、最寄りのバス停からバスで駅に行くことにした。

休日の朝だからなのか、私服の若い男女やこれから出勤するであろうスーツの人でごった返していた。

スーツを着た人の多くは、憔悴しきった顔をしていて社会の闇をより一層感じることができた。

これもいい社会経験である。ニッコリ。できるはずもなく、段々と俺の顔つきが周りの社会人と同じようになってきてしまっていた。


「本日はご乗車ありがとうございます。次は、東宮駅北口前。東宮駅北口前です。お降りのお客様はお知らせください。」


このガイド、いつもだったら友達と遊ぶってのがより実感できて胸が躍るはずなのに...どうやら今日はそうもいかないらしい。心なしか肩が重くなっている気がした。どうして俺はあの時...なんて頭の中で悔やんでいると突然声を掛けられた。いや、掛けられて”しまった”というべきであろうか。

俺は聞き覚えのあるその声の主へ振り向いた。


「珍しいね。こんな日に出会うなんて。もしかして、誰かと遊びに行くのかい?」


そうやって、俺に幼稚な皮肉をしてきたのは、そう、冴島である。冴島響。

何故よりにもよってこんな奴とこんな時間にこんな場所で出会ってしまうのだろうか。まったく。

本当にツイてないな。


「まぁ、そんな感じだ。それよりお前がいるなんてほんとに珍しいな。俺はほぼ毎週末乗ってるんだけどな」


遊びに行くかと言われればそんなことはないのだが、面と向かって闇バイトなんて言えるはずもなく。曖昧で適当な返事になってしまった腹いせに、俺も少しひにっくった返答をしてしまった。

別に、こいつが嫌いだからだなんてことは無い。無いはず。多分。


「確かに。僕がここに乗ってるのは友達の家に泊まってきたからだから、当たり前っちゃ当たり前だな」


そう言って、冴島は高らかに笑っていた。なんだろう。なぜこんなに虚しさが湧き上がってくるんだろうか......やっぱ、俺こいつ嫌いだわ。


「いやー、本当は昨日の夜変える予定だったんだけど彼女が一緒にいた言いていうからさ。ほんと困っちゃうよねー」

「帰り際も帰らないでってしつこくてさ、朝から大変だったよ」

「あ、そういえば君って彼女いたっけ?ほんとメンヘラには気を付けたほうがいいよ」


は?

なに勝手に惚気話始めてんだよ。お前とそんな仲良くねぇよ。自慢しかできないならそもそも話しかけてくるんじゃねぇよ。地獄のような朝を迎えてバス乗ったらこれかよ。ふざけんなっつーの。お前のせいで感情コントロール大変なんだけど。お前だけが大変だなんて思ってんじゃねーぞ。てか、質問振っておいて勝手に話し進めるのやめろよ。彼女いたことないけど....


「そうか。下半身にしか脳が無い奴にでも悩みは生まれるもんなんだな。勉強になった」


「はは、そんな悪く言うなよ。ま、悪かったね。謝るよ」

「君には生涯関係ない話をしてしまって悪かったね」


「うるせーよ」


黙れ。二度と口を開くんじゃない。俺の隣に来るな。俺の半径二キロ圏内に近づくな。俺の住む地域で息をするな。バイトでお前をやってやってもいいんだぞ。マジその口一生開かないようにしてやるからな。お前ほんとふざけんなよ。マジでふざけんな。ガチでふざk(以下略)


そんな感じに脳内罵倒をしていると、



「次は東宮駅北口。東宮駅北口です。お降りのお客様は停車するまで、吊り革や手すりに捕まってお待ちください。ご乗車ありがとうございました~」


どうやら駅に着いたようだ。これでこいつの会話相手からやっと解放される。やったね。できれば、もう二度と会いたくない。


「んじゃ、俺ここだから。」


「そうか、寂しくなるな。もう少しいない...」


「断る。お前と違って忙しいんだよ」


「じゃ、仕方ないな」


「おう、じゃあな」


「それじゃ」


去り際の物悲しそうな仕草が少し気がかりだった。あんまり喋ったことがなかったはずだったのに、いつの間にか口調が強気になってしまっていたところがあったかもしれなかったな。反省せねば。なんて思いながら、実はあいつはのほうがメンヘラだったんじゃないのだろうか。


バスの停留所から降車して少し歩いていくと、東宮駅に続く階段に着いた。

高校名と一緒の漢字だが、こっちの読み方は”とうぐう”ではなく”ひがしみや”である。

なんでどっちも一緒にしなかったんだよ。めんどくさいだろ。

無事に駅に着いたので琉太に連絡をしようとすると、見覚えのある人影が見えた。


「うぃ。待たせたな」


「うわぁ。って、なぎか」


「ごめんごめん、そんな驚くと思わなかったわ」


「あぁ、いや。いいよ。いいよ。それより、行こうぜ」


「もしかして、ビビってんのか?琉太」


「いや、ビビってねーし」


琉太を見つけて合流できたので、俺たちは駅のホームまで笑い話を交えながら歩いて行ったのだが....

やはり、琉太の様子がおかしい。多分、絶対。ほぼ確実に緊張してる。その証拠に、電車を待ってる琉太の足はビートを刻むのを一向にやめる気配がなかった。


「お前も緊張とかするんだな」


「なんだよ急に。そりゃ、まぁ。うん」


「いつも何考えてんのか分らんぐらいあほ面してるから、珍しいと思って」


「なぎは俺のことなんだと思ってんだよぉ」


まだ微かに強張っている顔をしている琉太を横目に俺は睡眠時間に充てるはずだったこの時間を取り戻すために目を瞑ることにした。


「おーい、なぎ起きろよ。もう着いたぞ」


「起きてる。おきてる」


気が付くともう駅に着いてしまっていた。慌てて電車を降り、重い瞼を必死に上げながらバイトの集合場所まで改札から歩いていくと、そこには黒いスーツを着た人たちが多いのに気づいた。


「まだ、あんまり人いないな」


「これから来るんじゃね?まだ五分前だし」


「なるほどな」


「てかさ、なんか黒服の人多くね?こんなにいるもんなのか?」


「結構都会のほうだし、もしかしたら一緒のバイトなんじゃない?」


「なぎって、天然だよな」


「急になんだよ。俺みたいなこと言い始めて..」

「てか、お前にだけは言われたくないわ。」


「そんな意地張るなって」


「じゃあいいわ。電車乗った時から思ってたけど」

「なんでお前靴下逆なの?」


「あ、あー。えぇっと。あのー、あれだ。最近の流行ってやつだよ。」


「いや、無理しかないだろ....」


そんな雑談をしていると、周りの黒服よりも怖そうな眼鏡をした黒服の人が近づいてきた。


「もしかして、柳川さんと石釜さんでしょうか?」


「あ、はい。そうです」

琉太が口を開いた。


「そうですか。では、時間も近いので簡単な業務の説明をしますね。」

「まず、今回やっていただくのは並び屋というもので、こちらのカードショップで指定された商品を買うために並んでもらうのが今回の仕事内容です。」


「え、そんなのでいいんですか?」


「はい。説明はこれで異常となります。後のことは、こちらのものにお尋ねください」

「それでは。よろしくお願いします」

眼鏡をかけている黒服の男性はロケバスのような小型のバスに乗って走り去っていってしまった。


「山田です。よろしく」






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