【AI】【赤松議員の発言を見て】零細なろう作家は技術の進化にAIコミカライズの夢を見る
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先日、ツイッターで赤松健という漫画家にして議員のセンセイが「なろうは駄作も多い」みたいな発言をしたとか言う話が流れてきました。で、ちょっと検索して、その発言が出ている議事録(※1)を見たんですよ。そしたら、議事録の中に、こんな文章が書かれていました。
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○赤松委員 今、小説家になろうとか、DeNAのEエブリスタとかに小説が20万とか30万とか上がっているんですよ。特に小説家になろうというサイトは、我々オタクみたいな男が異世界に転生して活躍するのがほとんどなのですけれども、ただ、アニメ化もするし、読者もそれを望んでいたら別にいいんですよ。そういう中で20万とか30万の小説が実際にある、こういうものはAIがつくるまでもなく駄作も多いわけです。今現在、既に創作物の量産が現実にあると。これを研究してみると対策などもわかるかもしれない。実際問題でいうと対策はしなくていい。というのは、何十万もの小説があっても読まれないので問題にならないようですね。
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とまあ、こんな感じで、確かに「なろうは駄作も多い」という感じのことも述べられていました。が、どちらかというと論点は「AIによって大量の作品が生まれることの是非」で、駄作云々は言葉のあやかなと、そんな風に感じました。
ぶっちゃけ、私はこう、「駄作」みたいな単語に過剰に反応するのって好きじゃなくてですね。正直、「駄作」という言葉を使ったことに、あまり思うところはありません。
……無いのですけどね。ただ同時に、「小説家になろう」というサイトについて、とてもよくある勘違いをされているようにも見受けられまして。
なろう系なんて言葉があって、読まれるためのテクニックもある。で、ランキングはそういう「なろう系」の作品の比率が高いのも事実だと思います。で、そこだけ見ると、そういう作品でピラミッドを形成してると思うのも仕方がないのだと思います。……が、実はなろうには「なろうっぽくない作品」も結構あって、ただそういう作品はそう簡単には浮上しないだけじゃないかなと。
読まれるためのテクニックには文章を読みやすくする方法論も含まれていて、これは「良い日本語を書けば読みやすくなる」というような単純なものではなかったりします。むしろ、インターネットが普及する前に当たり前だった「紙媒体で読みやすい文章」よりも、インターネット世代にとって読みやすくなるような「web媒体としての読みやすい文章」を意識して書くみたいな、従来の「良い文章の形」を破壊することで成り立っている側面があります。
他にも更新速度を気にしたりとかその時々の流行りを取り入れたりしっかり宣伝していたりと、ランキング作には「良作/駄作」の軸では語れない要素もかなり多いと思います。
……ランキングや今の人気作を否定するつもりはありません。ただ、作品数の多さも相まって、ランキングとは無縁の良作や、時にランキング作よりもランキングにふさわしいような作品が数が埋もれている、そんな現実もあるのも事実だと思っています。
と、赤松発言を見て私は、「駄作云々は特に思うところはないけど、多分違う意味でなろう(というかweb小説)の現実を理解してそうだな」と、そんなことを思った訳です。
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まあ、そんな現状ですからね。web小説界隈は、AIによる作品の氾濫を心配するのはちょっと心配性にすぎると、そんな感じなのだと思います。
個人的には、もう少しツールやサイトに統合されて、リアルタイムに「誤字脱字を教えてくれる」「人名にルビを振ってくれる」「あとがきに書く『評価をよろしくお願いします』メッセージを最終話だけにしてくれる」みたいな、縁の下で支える形になってくれると嬉しいかなとは思います。が、別に文章そのものは書いてくれなくてもいいかなと、そんな感じです。
……正直、執筆初心者の人も、文章を全部書いてほしいとは思わないんじゃないかなと私なんかは思うのですが、どうなんでしょうね。
ただまあ、個性的な話を求めるのなら、まずは探してみて、それで見つからなかったら、自分で書く。その間にAIが挟まる余地があるのかといえば、多分無い。web小説界隈には、AIがどう頑張っても叶わないような多様性がすでにあって、AIによる生成よりも検索の方が現実味がある、そんな状態なのかなと。
まあ、埋もれる作品には目立つ作品よりも色々と読みにくかったり未熟だったりする傾向はあるとは思います。が、それでも、「より多くの人に受けるように」学習された生成AIよりは面白い文章であふれてると、そう思っています。
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と、ここまで考えて、ふと思ったのです。――別に「そのままの形」にこだわることもない。ぶっちゃけ、「AIを使って読みやすい形にする」のも有りなんじゃないかな、と。
現に、現時点でも色々とあるのですよ。縦書きに変換する機能だったり、縦書きに変換しながらweb向きの「こまかい空行で区切られた文章」から空行を消して文章を大きな塊にしてしまうツールとかが。
冒頭で赤松議員が、「今、小説家になろうとか、DeNAのEエブリスタとかに小説が20万とか30万とか上がっているんですよ」なんて話をしていると書きましたが、その中でも最大手の小説家になろうには約約63万(※2)、全体の210%を占める作品が投稿されています。
で、この「小説家になろう」というサイトには、「縦書きPDF」という機能があって、ボタン一個で縦書きにしてくれる機能があります。これと同じようなノリで、ボタン一個で「AIを駆使して可読性を高めた作品」を生成して表示する機能があってもいいんじゃないかなと、そう思う訳です。
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で、技術が進んで「AIで小説を漫画化」まで可能になれば、色々と一変するんじゃないかなと。今まで、読みにくい文章であるが故に埋もれていた小説作品が、ある日突然、ボタンひとつで、漫画の形で見ることができるようになる。それは実質的に、全ての作品がコミカライズされるのと同じだと言ってしまってもいいと思います。
AIによる総勢63万のweb小説作品の全コミカライズ、私は楽しいと思いますが、どうでしょうか?
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と、ちょっと夢みたいなことを書いてきましたが。過去にDeepLの機械翻訳や、それこそインターネットのような新しい技術が起こしてきた変化というのは、要するにこういうことなのだと思うのですよ。
どちらも、翻訳の世界や印刷の世界に多大な影響を与えながら、利用者に途方もない利便性を与えてきた。インターネットが情報の世界から距離と時間をなくし、機械翻訳が言葉の壁をなくす。そうして、国境の垣根を取り除くことで発展したのが今の世界じゃないかなと。
翻訳の世界に影響を与えるから機械翻訳のない世界の方がよかったかと聞かれたら、それは違うんじゃないかと、私なんかは思う訳です。権利の保護と文化の発展を共に見据えて、よりよい形へと社会を変えていく。そのあたりは、文化芸術振興基本法や知的財産基本法、著作権法第一条といった各基本法にも記載された、普遍的な理念だと思います。
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と、少し話が脱線してしまいましたが。
小説家になろうで目に付くためには「読みやすさ」に相当な配慮をおこなわなければいけなくて、でもコミカライズ作品の需要の中には「人気作品をより読みやすい形で」というのも含まれている。そこは間違いないことだと思っています。
つまり、コミカライズという「読みやすい形で読む」という需要を満たすための商業活動も、そのターゲットになるためには「読みやすい作品」を書かなくてはいけない。
だから結局は「webとしての読みやすさ」という方向に舵を切らないと読まれない、そういう現実はあると思います。……まあ、カクヨムあたりは「読みやすさ」に対する要求はもう少し低い気もしていますが。
とにかく、現状ではweb小説で目につくためには「読みやすさ」というのはかなり大きな比率を占めている。そこに「ボタンひとつであっという間にコミカライズ」が実装されて風穴があくと、面白いことが起こるじゃないかなぁなんて思った訳です。
さらに技術が進んで、ボタン一つでアニメ化とかまで行ったら、世の中どうなってしまうのかなぁと。
どうしてそんなことを思ったかといえばまあ、何十万もの小説があっても、それは「駄作だから」読まれてないのとは違うよね、魅力はあっても欠点もある、超ニッチ、むしろ変態向け、そういう類の作品もたくさん埋もれていて、それらの作品は生成AIでは出せないような魅力にあふれてる。むしろ、生成AIによって生きることもあるんじゃないかなぁと、そんなことを思ったのです。
……まあ、今の生成AIは、そんなところまで期待されている訳では無くて、イラストや漫画を作成する助けになったり、本屋の販売POPみたいな「ちょっとしたイラスト」を手軽に作れるようになればいいなと、その程度のものだとは思いますが。
それでも、AIが超進化した時代を夢見たっていいと思います。そんな楽しそうな時代、早く来るといいなぁ、と。
※1 次世代知財システム検討委員会(第4回) 議事録より引用。(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2016/jisedai_tizai/dai4/gijiroku.pdf)
※2 小説家になろうに投稿された作品の内、その他ジャンル(童話/詩/エッセイ/リプレイ/その他)とノンジャンル(2016年のジャンル再編時からジャンル設定がされていない作品)を除いた数値(2024/9/14時点)。なお、完結済み作品(短編作品含む)は37万作品、連載中作品は26万作品。なのでまあ、連載中作品に限るのであれば、「20万から30万という数が上がっている」と言うのも間違いではないと思います。