興味深い写真2
写真に写ったセーラー服姿の死体。死体の性別は男で、しかも職業は警察官だという。写真に写る人物は状態からして墜落死したものと推察される。
他の写真を見ると、その逞しい腕や足の筋肉、また筋肉だけでなく濃い体毛も確認できる。顔は血まみれではあるが損傷はさほどでもなく、がっしりした顎、太い眉と鼻筋、力強い鼻腔、そして薄っすらと髭の剃り跡までもが写真に写り込んでいる。
「写真が撮られたのは、つまり双葉君が死んだのは三日前。五月二十日の深夜のことです。死因は墜落による失血。折れた骨が肺を貫いておったようです。肺が血で一杯になって、自分の血で溺れてしまったんですな」
アケチは写真を見つめたままナミコシに尋ねる。
「他の傷は?」
「ええ、骨折が十数カ所。医師の所見が資料の中に入ってますよ」
アケチは手早く書類の束を繰って医師の所見に目を通す。
アケチの中で、書類から得られた情報を元に、死の瞬間の双葉六郎の様子が再構成されていく。
「ウオッー」
吠える双葉六郎。その手は何もない宙を掴もうともがく。顔に浮かぶ驚愕。死への恐怖。食いしばった口元に浮き出る筋肉。覗く白い頑丈な歯。
夜の闇に煌めくネオン。赤、青、緑の光の宝石。キラキラした都会の光の海に投げ出される双葉六郎の体。
ヒラヒラと舞い踊る濃紺のプリーツスカート。短めの裾からは剛毛と言っていいすね毛が密集する筋骨逞しい足が突き出ている。足にはスクールガールらしい黒のローファー、紺色のハイソックス。
司法の目はスカートの中にも及んでいる。スカートの中はフリル飾りのついた女性物の下着。双葉にはサイズが小さすぎるため紐のように伸び切っている。色はピンクだ。双葉は恐らく落下中に失禁しただろう。
そして二秒弱の、双葉にとっては永遠にも近い時間が経過した後、彼の体はアスファルト歩道の上に叩きつけられた。この瞬間、彼の頭の中では、生まれてからこれまでの三十年間の人生が走馬燈のように再生されたに違いない。もっともアケチはその走馬燈というものの現物を見たことがないのだが。
グワッチャッッー
近くを歩いていた数人の通行人は、その音から、分厚い布袋にドロドロの土と木切れや釘や鉄パイプのような廃材をごちゃ混ぜにしたものをパンパンに詰め込んで、それを高いところから思いっきり地面に投げつけたのだと思ったそうだ。それもそうだろう。普通の人間は空から人が降ってくるとは思っていない。管理の悪い工事現場からコンクリートガラだの資材だのが落ちてきたのだと考えるほうが容易だ。
結果的に、構成的には皮袋に血だの肉だの骨だのがパンパンに詰まったものということで、ほぼ通行人の直感通りだったのだが、それは工事廃棄物ではなく人間だったというわけだ。
ビチャッッー
粘液が弾け飛び散る。その飛沫を浴びた通行人は、その生々しい音と匂い、頬に浴びた粘液の生暖かさを簡単に忘れる事は出来ないだろう。中には精神的な傷となり長年悩まされるものもいるだろう。
人々はその歩道の一角を指差し、ここで投身自殺があったと噂しあい、歩道に残る僅かな染みですら踏まないように避けて通る。近所の者は家や店の前に盛り塩をし、いつ誰とも分からないうちにそこには小さな花束が手向けられ、そこで起きた滅多にない不幸を道行く人々に知らせるのだ。空から人が降ってくるとはそういう事だ。
「いかがでしょう?」
ナミコシが集中しているアケチに遠慮がちに声を掛ける。アケチは資料に目を落としたまま、
「いいですよ、タバコ吸っても」
ナミコシは「いやぁ、恐れ入ります」と言ってカウンターを離れ、店の外に出る。電子パイプを取り出し、やがて白い煙を蒸し始める。ナミコシはその物腰の柔らかさとは反対に中々の偉丈夫で、スッと背筋を伸ばしタバコを愉しむ姿はどこか昔懐かしいギャング映画の登場人物のようであった。




