興味深い写真
男はなぜアケチにあえて水のグラスを取らせようとしたのか。
「いやぁ」
男は真っ白な髪の毛をモシャモシャとかき乱す。
「未成年にアルコールを勧めるのは犯罪ですからね、アケチ君」
途中から予想はしていたが、やはり男はアケチのことを知っていたらしい。
「私、こういうものでして。ナミコシと申します」
ナミコシは黒い警察官手帳を見せながらアケチに小さく頭を下げる。
「僕は容疑者ですか?」
「まさか」
ナミコシは笑って手を振る。
「ご紹介いただきましてね。素晴らしい捜査能力を持った探偵がいらっしゃると。あぁ、都市犯罪研究センターにお勤めのあなたのご親戚からではありませんよ。彼女のことはよく存じていますが、仕事でご一緒することはありませんので。仕事の種類が違うというんですかねぇ、はい。街中で出会っても知らないふりをすることになってます」
こういう話を平気でするということは、この店もマスターも協力者なのだろう。アケチはもう二度とこの店には来るまいと決心する。
「誰の紹介でしょう?バイトに応募した覚えはないですけど」
ナミコシは仰る通りとばかりに何度も頷く。
「なんと言いますかな、特定の誰と言うより、警察内部の非公式のルートでして、まぁあまり詳しくはお教えできんのです。我々内部の人材バンクみたいなものですかな。そこであなたの名前を見つけたということで」
アケチは少々ムッとしながら、
「登録しましたっけ?僕?その人材バンクに」
となじるように言う。
「いや、そう怒らないで下さい。私が登録したわけではありません。あなたの御親戚が推薦したわけでもありません。商売柄その手の情報は大量に集まりますから。私はその中から事件の解決に必要な能力のある方にお声をかけたにすぎません」
ナミコシは傍らに置いた黒いブリーフケースから薄茶色の封筒を取り出す。
「実は解決の糸口が見出せず困っておる事件がありまして。いかがでしょう、まずは資料を見ていただきながら話だけでも聞いていただけませんか。少し妙な事件でして。アケチ君なら興味を持ってくれるんじゃないかと」
ナミコシは分厚い玉紐付きの封筒を開け、中身を取り出そうとする。
「まだ手伝うとも、話を聞くとも言ってないけど」
ナミコシは「もちろんですとも」と言いながら、封筒の中身を取り出す。マスターが「店、閉めときますから」とカウンターを出て、ドアにCLOSEの看板を掛け内鍵を掛ける。物静かで動きに無駄がない。このマスターは元警官だろうか、それとも自分と同じ人材バンク登録者だろうかとアケチは考える。
「まずは先入観なしに見ていただきましょう」
ナミコシが四つ切サイズの写真を一枚、アケチの方へ押しやった。アケチはチラと写真に視線を走らせ、手を伸ばす。
「まぁじっくりご覧ください。他の写真もありますので」
ナミコシが写真の束をアケチの前に置いた。カラー写真。時間は夜。どこかの路上だ。写真にはセーラー服姿の死体が写っている。首が捻じれ、手もあらぬ方向へ曲っている。
悔しいがナミコシの言う通り、アケチの興味をそそる写真だ。髪は金髪。血でぐっしょりと濡れ、これも血だらけの顔に張り付いている。生え際から黒いものが見える。どうやら地毛は黒、金髪はウィッグのようだ。
「…うん?」
アケチは思わず声を漏らす。他の写真をパラパラとめくる。顔の大写しの写真をじっと見つめるアケチ。写真に目を落としたまま呟く。
「男かー」
「そうです。写真の人物の名は双葉六郎。我々のお仲間、つまり警察官です」
ナミコシはそう言ってマスターにカプチーノを注文した。




