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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
落ちる警官
27/34

ゲーム

「あなた、退屈していらっしゃるのでしょう?」

 男はそう言ってアケチ青年の目を覗き込む。綿菓子のような真っ白な髪。かなり寂しく

なった広い額。ギョロッとした大きな目。グッとせり出した顎。異相と言っていい顔つきであるが、どこか愛嬌がある。

 アケチはその目に男の感情を探ろうとしたが、不思議なことに男はそのにこやかな笑顔とは裏腹に、目に何の感情も浮かべていなかった。そのことが逆にアケチの興味をそそった。

 アケチは何も言わずに軽く肩をすくめ、「どうぞ」といった感じで男に掌を向けた。男は嬉しそうに相好を崩す。

「簡単なゲームです。ルールをご説明しましょう。マスター?」

 男はカウンターの内側の店主に合図を送る。おや?とアケチは思う。どうやら店のマスターは事前にゲームのことを男から言い含められているらしい。

「今からマスターにカクテルを二杯作ってもらいます」

 男は楽しくて堪らないといった風情で揉み手をする。分厚くてゴツい手。指も長い。拳のナックル、関節部分には、おやおや、拳ダコができている。武道経験者らしい。

「さて、作るのはジンベースのカクテルです。無色透明。グラスも全く同じものです」

 男が説明するそばからマスターがシェイカーを振り始める。この店は日中は喫茶店、夜にはバーに変わる。マスターはバーテンダーでもあるのだ。

 小さな逆三角形の脚の長いカクテルグラスが二つ、アケチと男の間に置かれる。

「さて、この二つのカクテルですが、一つは本物のジンを使ったもの。もう一つはただの水です」

 男は嬉しそうに両手をゴシゴシやりながらグラスを示す。

「さて、どちらが本物のジンベースのカクテルか、見分けがつきますかな?」

 男は嬉しそうに目を見開いてアケチを見る。

「水のグラスを選べばあなたの勝ち。アルコールのグラスを選ばせたら私の勝ち。いかがですかな?」

 男は「アルコールのグラスを選ばせたら」と言った。つまりアケチとの駆け引きでアルコール入りを選ばせると言っているのだ。

「水を選ぶと俺の勝ちなんですか?」

 アケチの問いに男は大きく頷く。

「俺が勝ったら?」

 男はちょっと迷った表情になったが、また破顔して、

「そのコーヒー、奢らせていただきます」

「負けたら?」

 男は愛想よく言った。

「私がコーヒーを飲み終えるまで話し相手になってください」

 アケチはふぅんと鼻から言って、二度ほど首を振る。

「いいですよ。じゃ始めていいですか?」

「あぁ、ちょっとお待ちを。ルールのご説明がまだでしたな。まずあなたがグラスを選ぶ前に互いに二つずつ質問をするのですよ。はい、いいえ、二択で答えられる質問をね。尋ねられた方は必ずはい、いいえ、いずれかで答えなくてはなりません。ただし本当のことを答える必要はありません。嘘でも良いのです。互いに二つの質問が終わったら、あなたがグラスを選ぶのです」

「なんかまどろっこしいな。いいよ、質問は」

 男は笑ってアケチを覗き込む仕草をして見せる。

「そういうルールですので。さぁ、あなたの先行で結構ですよ。どうぞ、何なりとお尋ねください」

 男はそう言って胸の前で両手を広げる。アケチは男の言葉を頭の中で転がしてみる。男はあなたの先行で結構ですよと、さも先行を譲るような言い方をしたが、実際のところ相手の質問を聞いてから質問のできる後攻のほうが有利なのだが。

「では」

 アケチはそう言って相手をじっと見つめる。あえて相手の言葉に乗っかることにしたのだ。数秒待ってから、アケチは尋ねる。

「アルコールの入ったグラスはあなたから見て右のグラスですか」

 男は大きな目をキラキラさせながらアケチを見返している。男が口を開いた。

「いいえ」

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