退院
丸亀洋子はドクター・プレシャスこと、志保の方の患者、つまりは下僕となりました。
壱心と志保里の自宅に監禁され、毎日毎日「矯正治療」という名の責めを受けるのです。
洋子は富豪老人との同居時代から公園内の公衆トイレ清掃の仕事をしておりました。これは清掃が完了すると携帯アプリを使って会社に連絡する必要があります。志保里は仕方なく毎朝公園まで出かけ、洋子から取り上げた携帯端末から清掃会社へ業務報告を入れておりました。
さて、数日立つと壱心と志保里はこれは困ったと感じるようになりました。
このまま洋子を「入院」させ続け、高額な治療費と入院費を搾り取ってやろうと考えていたのですが、遺産を相続し彼女自身が富豪となった今、洋子に連絡を取りたがる人間は意外と多いのです。弁護士、税理士、投資会社、それにトイレ掃除会社まで。
長期間かけて金を搾り取るよりも一気にかたをつけてしまうほうがよさそうだと判断した壱心と志保里は、洋子への責めを更に苛烈なものへとレベルアップさせました。
特注の分厚いゴム製スーツを洋子に着せて、夜中に街中を歩かせたり、ゴムスーツ姿のまま首輪と引き綱を付けて犬散歩をさせたり。この時期、この界隈では「青銅の魔人」を見ただの、巨大な「魔犬」を目撃しただのの噂が流れたほどです。
壱心と志保里の作戦はこうです。まずペーパーカンパニーを設立します。行き場のない食いつめ者に小遣いをやって名義を借りて取締役とし、そこら辺の雑居ビルの一室を会社住所として法人の登記をします。事業内容は福祉事業とか、まぁ適当にしておくのです。
この会社の取締役として洋子を迎え、全財産を会社に出資させてしまいます。その後はどうとでもなれーということです。
つまり洋子から実印を取り上げる。これさえできれば洋子の相続した財産を根こそぎ奪えるわけです。
壱心と志保里はあの手この手で洋子を責めました。虐めて虐めて虐め抜いたのです。ところが洋子は実印の在処だけは教えようとしません。教えたら終わりだと分かっているのでしょう。殺されるーという意味ではありません。志保の方の下僕として重用されるのは財産のおかげ。
それともう一つ。洋子は志保里から責め抜かれることが全く苦痛ではなかったのです。嬉しくて、気持ちよくて、この苦痛ができるだけ長く続いて欲しいと願っていたのです。そのためには実印を渡してしまってはいけません。その程度の計算は洋子にもできるのです。
志保里は本来マゾヒストであり責めることに慣れていない壱心に、洋子を責め殺してしまわないよう注意しなければならないほどてした。
志保里は作戦を変えることにしました。洋子を脇に放置しておきながら、壱心を責めたのです。壱心を責めるところを洋子に見せておきながら彼女には一瞥もくれないのです。
この手は驚くほど効果的でした。洋子はあっという間に落ちてしまいました。間近に志保の方の責めを見せられながら、自分は一切いたぶってもらえないのです。重度の薬物中毒患者の目の前に薬物をぶら下げたようなものです。
さて、目論見通り実印を手に入れた壱心と志保里は有頂天です。洋子が相続した十億の遺産が自分たちのものになったも当然なのですから。
しかしながら二人の喜びは長続きしませんでした。一体どこで情報が漏れたのか、二人の自宅に警官が大挙してやって来たのです。
壱心と志保里の二人は逮捕され、洋子は警察に保護されたのでした。




