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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
微笑む死体の作り方
21/34

ブタとアンゲリカ

 昔々、あるところに、瀬名(せな)壱心いっしんというやくざ者がおりました。本名は一史(かずし)というのですが、ヤクザ道を志してからは壱心を名乗っています。だって壱心の方が発音に切れもあるし、この道一筋という心意気を上手く表しているじゃありませんか。

 壱心には実は昔から奇妙な癖がありました。やくざ者になるくらいです。子供の頃から素行は悪く、叱られたりどやされたり、警察のお世話になったりを繰り返しているのですが、実は壱心は他人から叱られるのが全く苦ではなかったのです。それどころか、叱られたり叩かれたりすると、彼はドキドキして、ワクワクして、居てもたっても居られなくなってしまうのです。

 そう。彼は被虐性欲者、俗に言うマゾヒストだったのです。彼が生まれて初めての精通を迎えたのは小学六年生の時。彼は職員室で担任の若い女性教師から、クラスメイトに乱暴を働いたことを鋭い言葉でなじられておりました。

 若い女教師はここが教育者の仕事のしどころとばかりに、壱心の心を叩き直そうと舌鋒鋭く壱心を責めます。教師に責められながらも、壱心は不思議な感覚に囚われておりました。

 怒られているのに、なじられているのに、少しも辛くないのです。きつい目で見据えられ、棘のある強い言葉で責められているのに辛くないのです。いえ、正確に言うと辛くて苦しいのですが、その辛さ、苦しさが壱心の中に不思議な感覚を生み出していたのです。

 まるで痒くて痒くて仕方がない霜焼けをガシガシと掻きむしるような、化膿して腫れた傷跡の瘡蓋(かさぶた)を無理やり剥がすような、心の内側にザワザワと鳥肌が立ち、その細かな無数の泡が波のように寄せて返して壱心を揺さぶるのです。

 辛くて悲しいのに、壱心はこの状況に喜びを覚えているのです。その証拠に壱心の股間のものは経験したことがないほど強く屹立し、薄汚れた七分丈パンツを押し上げています。

 教師がそれに気付かないはずがありません。教師の目に強く昏い光が灯りました。口元には教室では決して見せない類の笑みが浮かんでいます。

「あなたはまるで反省していないのね。あなたのようなクズはお仕置きをしないといけないわ。痛い痛いお仕置きをね」

 教師は引き出しからステンレス製の細長い定規を取り出しました。そして、

「ズボンの裾を捲くりなさい」

 と涎を啜り上げながら言いました。壱心は半泣きになりながらズボンの裾を捲くります。教師はその、柔らかそうな腿をひと無ですると、定規の先端を摘んで大きくしならせました。


 バチッー


 鋭い音がして、壱心は「ひっ」と声を上げました。教師はもう一度定規をしならせ、壱心の腿を打擲しました。


 バチッー


「ヒィッッ」

 壱心がボーイ・ソプラノで喘ぐ。教師は更に数度の打擲を与え、果てに壱心は「アッ」と叫んで初めての射精を迎えたのです。

 それ以来、教師はたびたび壱心を呼び出すようになり、場所は職員室から人けのない相談室に代わり、指導の時間も長くなり、教師は相談室では壱心を「ブタイチ」と呼ぶようになり、壱心は教師を「アンゲリカ先生様」(その教師は安野恵梨香という名でした)と呼ばなくてはなりませんでした。名前を言い間違えたりするとひどい罰が待っているのですが、それは壱心にとってこの上ないご褒美でもありました。

 こうして壱心の性的嗜好は小学六年生にして完全に決定付けられ、もう他の方向に向かったり、別の形に変わることなど不可能なほどに、強く念入りに調教されることとなったのです。

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