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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
微笑む死体の作り方
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微笑む死体の作り方8

 志保里はなぜ地下鉄に乗ったのか。実を言うとアケチは、その疑問を解き明かすことに執着していたわけではない。SM女王とヤクザの若頭の秘密。そして殺人。アケチの好みはもっと意外性のある、見た目からは想像もつかない人間心理の内側を覗くことである。女王とヤクザと殺人。結構ありきたりではないか。殺す者と殺される者。いたぶる者といたぶられる者。サディストとマゾヒストと憐れな生贄のゲーム。調べなくても想像がついてしまう。

 アケチはそれより遥かにアケチの興味をそそる、且つ、フミヨの依頼にも沿う案件をいくつか抱えている。重度の窃視症患者である大学教授や、人斬りをやめられない剣道愛好家の県会議員、あと少しで快楽殺人者に堕ちていきそうな女医などだ。いずれも社会的地位と清廉な社会的イメージを持つ者ばかり。人には言えない特殊な性癖を持つエリートたち。アケチはそういった人間の隠された本性、絶対に人には見せない心の深部を覗き見ることを好む。小綺麗な仮面の下に隠された取り繕うことのない赤裸々な人間の欲求と行動の探求。それこそがアケチの探偵行動の目的なのだ。そしてフミヨの所属する組織はそういった社会的影響力を持つ人物の弱みや性癖についてひどく関心を寄せている。

 アケチはフミヨ宛に簡単な報告を送るとタワーマンションの前を離れた。しばらくしてアケチのスマートフォンがブルブルと震えて着信を知らせた。


 SM女王、詳しく調べてみて


 フミヨからのメールである。アケチはさして乗り気ではなかったが、バイトとはいえ雇い主であり心を許せる数少ない相手でもあるフミヨの指示なら仕方がない。アケチは授業終わりにタワーマンションへとって返すと、蛇のような忍耐強さと執念深さ、鷹のような目敏さを発揮して曽我部志保里の監視を続けた。そして早朝彼女が地下鉄に乗ること、しかも自分の最寄駅から乗ることを突き止めた。この頃にはすでに朝カフェで人間観察を行う習慣のあったアケチには好都合であった。

 同じ電車に乗り込み、スマートフォンのロックを解くパスワードを盗み見し、更にはそのスマートフォンを掏り取って中身を調べる。志保里嬢の直接的な秘密や犯罪の証拠があるわけではなかったが、何通かのメールを読むことで、一つの推論を導くことができた。


 志保里嬢と瀬名は誰かを某所に監禁しているー


 志保里の後をつけ、同じ地下鉄に乗り、スマートフォンを掏り取り、鷹並みの視力で背後から画面を盗み見し、知り得た情報をフミヨに知らせた。

 アケチの志保里嬢に対する調べはそこまでである。アケチは知り得た情報をそのままフミヨに伝えた。志保里嬢をどうするかはフミヨに委ねるつもりだった。フミヨもそれ以上の調査を求めなかった。その週末にはアケチの口座に少なくない額のバイト料が振り込まれた。金払いの良さも、支払いの早さもお役所とは思えない。つまりはフミヨが所属している都市犯罪研究センターは単なる警察の外郭団体ではないのだろうが、アケチは特に詮索するつもりもなかった。

 そんなフミヨから連絡があったのは、それから一週間ほど経ってからである。


 いつものところで会えるかしら?一八時ね


 メールに書かれているのはそれだけ。一応アケチの都合を気遣う素振りを見せながら一八時と時刻を決め打ちしている。フミヨらしいメールにアケチは口元に笑みを浮かべた。

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