微笑む死体の作り方4
それでもアケチの観察癖は止まらない。努力して周りに注意を払っているのではない。観察が好きなのだ。他人を観察し、その人の本質を知ることが楽しいのだ。
アケチは座席に腰掛けたまま、サングラス越しにチラチラと車両内に視線を走らせる。車内ではスマートフォンを弄んでいる者が多い。後は本を読む者、新聞を眺める者、目を閉じて眠る者などなど。アケチが顔を上げても視線がかち合って気まずい思いをすることはほとんどない。(アケチは他者と目線を合わせるのが少し苦手だ)
そんな中でアケチの興味を惹く乗客がいた。始発から二つ目の駅で乗り込んできたその女性はアケチの斜め向かいの座席に座った。その女性は長い髪を後ろで団子にまとめているのだか、その髪は燃えるような赤い色をしていた。目元は大振りのバタフライ型サングラスで隠されている。濃いワインレッドのブラウスは喉元までキチンとボタンが留められており、黒のスーツとタイトスカートは磨き込まれた黒檀のような艶があった。靴はアケチでなくても一目でそれと分かるイタリアブランドのハイヒール。
高級クラブのママかホステスだろうか。しかし普通そういう職種の人間はこの時間に地下鉄などに乗ったりしない。深夜のうちにタクシーで帰宅するはずだ。
アケチは観察を続ける。女性が身じろぎをしたせいて左手首の時計がチラリと覗く。スイス製の高級時計だ。時計はもちろん、服や靴には本物の高級感が漂っている。つまりかなり裕福な部類の人間だ。
ピアスがチカリと光る。ダイヤだ。アケチの目はこれもイミテーションなどではないと見抜いた。鼻にもピアス穴が空いているが鼻ピアスは付けていない。右手首には銀のブレスレット。こちらもダイヤ入りだ。首元にはネックレスをしている気配はあるが、一番上まで留めたボタンのせいで確認できない。まずここでアケチは「おや?」と思った。宝飾品は基本人に見せるためのもの。襟で隠してしまっては意味がない。
アケチは更に女を観察する。次に気になったのは足だ。黒いタイトスカートから伸びた惚れ惚れするような足。ほっそりと長く伸びた脚の筋肉はキュッと引き締まっており、日夜入念な手入れと運動を欠かさない脚だ。その足は花柄のストッキングに包まれているが、左右の足首の少し上辺りにアケチは違和感を感じた。アケチは目を凝らす。
あぁー ファンデーションを塗っているのかー
女は足にファンデーションを塗っている。そして時折覗く太腿にもファンデーションが塗られているようだ。
ははんー タトゥーだなー
左右対称位置にファンデーションが塗られていることから、怪我や痣などではなく入れ墨を隠しているのだろうとアケチは推測した。
となると、首元を隠している理由もタトゥーだなー
首や足にタトゥー。恐らくはそれ以外の部分にも入れ墨があるのだろう。全身のタトゥーと派手な髪色、高価な装飾品。いわゆるカタギには見えないというやつである。
この女性は自分が目立つ存在であることを分かっていて、極力人目を惹かないように髪をまとめ、入れ墨を隠しているというわけである。
目立ちたくない理由はなんたろう。目立つリスクを冒してでも朝の地下鉄に乗る理由はなんだろう。そもそもこの女性はどこの誰で、どんな仕事をし、どんな生活を送り、どのような世界に、どのような立場を得ているのだろう。
顔の半分はサングラスで覆われているものの美人である。その顔は恐らく軽微な美容整形手術を受けたことがあるはずだとアケチは見て取った。女性にしては大柄な方で身長は百七十センチ前後あるだろう。鍛えた肩、キュッと絞った腰、弾けそうな尻と長くほっそりとした足。スタイルは抜群である。
アケチは俄然この女性を深く知りたくて堪らなくなった。




