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101号室の住人。4


突然ダンボールから何かが飛び出してきて、驚いた私が見た物は黒い動くキノコである。



「きの、こ‥?」



だけど大きなペットボトルくらいあるし、なんかウゴウゴ言いながら動いてる。端的に気持ち悪い。‥これ、どうすればいいんだろう。黒いカサをふわふわと動かしながら動くキノコに目眩を覚える。


おばあちゃん‥、絶対これ知ってたでしょ。


しかし動くキノコがアパートの敷地から出た日には大変な混乱を呼ぶだろうし、そもそも住人さんの荷物を放置して置く訳にはいかない。ちょっと気持ち悪いけど、ダンボールに戻そうと決めてゆっくり立ち上がる。



お誂え向きに、宅配物置場だけあって入り口にガムテープが置いてある。



あとで手を洗うしかない‥。

そう覚悟をした私は足元で未だウゴウゴと言いながら動く黒いキノコをガシッと掴むとダンボールに突っ込んで、蓋をした瞬間にガムテープで何度も重ねづけした。喰らえ!!!ブラック企業で嫌というほど宅配させられた腕前を!!!


黒いキノコを戻したダンボールは、またガタガタと動いたけれど、どうやらガムテープには勝てなかったようだ。ホッとしたけれど、もう一つ新たな事案が浮かび上がる。



「‥ガムテ貼り過ぎて、宛名が見えない‥」



私のバカ‥。

いや、もうこうなったら張り紙に書いておこう‥。

あのキノコをもう一回掴むのは嫌だ‥。なんかむにゅっとしてたし。


朝から頑張ろう!という気合いがものすごい勢いで萎れそうになっていると、ガチャンとドアが開く音が聞こえた。


住人さんだ!


慌てて宅配置場から出てくると101号室というプレートが貼ってあるドアから、黒いロングコートを着て、黒いシャツにパンツ、黒いヒールのあるブーツを履いたナキルさんがカツカツと小気味いい足音を立てて、こちらへやってくる。



うわぁ‥魔王様だ。

異世界の漫画で散々見たような、まさに魔王!という出で立ちだ。



だがれっきとしたうちのアパートの住人なんだよね。

昨日は初めてトレイを持って、天ぷら蕎麦を宅配させてしまったのだ。ちゃんと挨拶をせねば申し訳が立たぬ。



「おはようございます!」

「ああ、おはよう。早いな」


「できれば住人の皆さんに挨拶をしてくて‥」

「そうか。だが、ここの住人は出勤時間がバラバラだから難しいかもしれないな」


「そうなんですか?!」



おばあちゃん、そういうの早めに教えて‥。


でもまぁ、一番お世話になったナキルさんには挨拶できたし、いい事にするか?いきなり出鼻を挫かれて、朝食を先に食べてまたドアの前で待ち構えておくか?と思ったその時、



黒いドアから、リンゴーンと鐘のような音が鳴ってびくりと体が跳ねた。



「か、鐘?」

「一回だと住人か、住人の関係者だ。二回なら業者だな」

「そうなんですか?!」



おばあちゃーーん!!説明が圧倒的に足りないよ!

でも、もしかしたら住人さんかもしれないし、ドアを開けた方がいいよね?勇気を出して私はそっとドアノブに手を伸ばした。



期待と不安で緊張しつつ、そっと黒いドアを開けると、目の前が暗い。


暗い?


目の前に広がるものすごい筋肉の塊が私の目線を上に引っ張っていく。

上半身は裸で所々傷があって‥、そうして頭は牛である。ものすごい角が二本ある牛。顔だけ牛。



牛の頭をしたその人は、黄色の目玉をしていてギョロッと私を睨む。

はぁはぁと荒い息遣いとギラつく瞳に、思わず足が後ろへ一歩下がる。



怖い。率直にこの人が住人とか嫌だと思ってしまった私を許して欲しい。でも怖いものは怖いのだ。だけど住人さんなら確認と挨拶をせねば‥と、勇気を絞り出した。ブラック企業に辞表を出した時よりは余裕‥かもしれない。



「あ、あの、住人の‥」

「おおおおおおおで、ななななななき、ま、」

「え、ええっと‥?」

「むむむう‥」



な、何?もしかして今更だけど異世界の言葉?

ナキルさんに聞こうかと思ったら、牛さんはナキルさんを見た瞬間、


「お、おおおおお!!!!!!」


いきなり大きな声を出したので、私は堪らず横にいたナキルさんの服をガシッと掴んでしまった。怖い!!!めちゃクチャ恐いよぉおおお!!!ガクガク震える私に、こちらへ足を一歩踏み出した牛さんから逃げようとしたその時、横にいたナキルさんが私を後ろへ庇うと、牛さんの太い手首を掴んでポイッと庭に投げた。



投げた?!!



目を見開くと、ものすごい地響きと共に庭の真ん中に牛さんが倒れた。

投げられた牛さんも一瞬の事で、事態がよく飲み込めなかったんだろう。



「え”?」



って言ったけど、私も完全に同じ気持ちです。

私は牛さんとナキルさんを交互に見つめたけれど、あれ?住人さんじゃないの??




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