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101号室の住人。


あっという間にアパートの管理人に決定してしまった私。

おばあちゃんは、いつの間に用意していたのか私が普段使いしている化粧品やら着替えを詰めたダンボールをジープから出すと、どさっと私に手渡してくれた。



「あの‥、これいつの間に?」

「みつみちゃんに言っておいたの!就職先ここだから詰めておいてって!」

「母よ!!」

「みつみちゃん、いい子よねぇ。あと、頑張れ!だって!」

「母よ!!!」



一週間、家でゴロゴロするのも許して貰えないのか私は‥。

遠い目になっている私におばあちゃんは、近所のスーパーやドラッグストア、パン屋にケーキ屋にオススメのお花屋とホームセンター、コンビニなんかを記した地図を渡すと、


「習うより慣れろ!じゃあ、よろしくね!!」


そう言って、止める間もなくゴツイカーキのジープに乗って颯爽とどこかへ行ってしまった。せめて連絡先くらい教えて!!という声も虚しくあっという間に行ってしまって、私は庭先で一人佇んだ。



誰があのマイペースなおばあちゃんを止められる?

もう腹を括るしかない‥。



「とりあえず、荷物を片付けて必要な物は買い足すか‥」



桜が舞い、庭に植えられた花をぼんやり見ながら歩いていると、ガチャッと扉が開く音がして、ハッとして顔をあげると、私の部屋の横にある黒い扉から男性が出てきた。


え?

待って?

なんで私の部屋から男性が出てきた?

驚いて体が固まってしまった私を、長い前髪をセンター分けにした男性が気配を察したのか、ついっと顔を向けた。



こちらを向いたその人は、髪も格好も爪先までネイルで真っ黒だった。



綺麗なシミひとつない肌に、少し長めの黒い前髪の間からキリッとした金の瞳が私をジッと見つめた。思わず雑誌でもネットでも見たことのないくらい格好良い顔に、私も同じようにじっと見つめてしまった。



は?え?なに?こんな人格好いい人見たことないんですけど?

あと今頃気付いたけど、髪が耳から下は刈り上げられててスッキリしてて、なかなかいいカットだな。と、不審者が出てきたのに違うことに興味がいってしまった‥。


そんな私に、その男性は首をちょっと横に傾げ、



「‥誰だ?」

「だ、誰って、貴方こそそのドアから出てきたけど‥、そこは私の家で」

「ああ。タキの孫というのはお前か」

「へ?」

「俺は101号室の住人だ。丁度帰ってきた所だったんだ」

「帰って‥???」



私の部屋から帰ってきた??

完全に混乱している私を綺麗すぎる顔をした男性が手招きして、私の部屋の隣にあるなんの変哲もない黒く塗られた木のドアを開くと、



そこには、抜けるような真っ青な空に、鬱蒼と茂った森の奥に大きな黒一色の城がドンと目の前に広がっていて‥、私は口をあんぐり開けた。どういうこと?ドアを開けたら城ってなに?!!

一体どうなってるの?


目を見開いたまま、男性の方を見上げ、



「なんで城?!」

「あれは俺の城だ」

「え?!貴方の城?」

「ああ、名乗ってなかったな。俺は魔王のナキルだ」

「まお‥?!!」



今何か聞き間違えた??

私はライネさんを見上げ、


「ま、まおうなきるさん?」

「魔王をしているナキルだ」

「魔王‥」


やっぱり魔王だった〜〜〜〜!!!!

二回言ってくれたけど、魔法だった〜〜〜!!

しかし二回も聞かれたのに嫌な顔もしない、大変綺麗で格好いいナキルさんはふっと微笑むと、



「名前を聞いても?」

「あ、失礼しました!三津臣(みつおみ)ふみと言います。よ、よろしくお願いします‥」



果たしてよろしくしても良かったのか?

しかし圧倒的な美しさと、声まで格好良いナキルさんに反論できる余地もなく名乗ってしまうと、ナキルさんは満足そうに微笑んだ。



「聖女のアパートやらは大変だろうが励めよ」

「聖女????」



最早はてなマークが飛び交う私の顔を見て、ナキルさんは可笑しそうに微笑むと、隣のアパートの一階へ鍵を回して入っていった‥。



未だぽかんとする私の前に、そびえ立つ黒い城と、海外のような抜ける青空を見て無言でそっとドアを閉めた。



習うより慣れろ。

まずはおばあちゃんの連絡先をお父さんに聞いて、それからあの分厚いマニュアルとやらをよく読み込まねば‥。どこか遠くを見つめる瞳で私はよろよろと自分の部屋のドアを開いて、中を十分確認してから部屋へ戻った。





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