103号室の住人。2
洞窟の奥底から出てきた青白い顔をした少年が、ランプを持ってやってきた。
「僕、今忙しいのに〜」
少し面倒そうにこちらへやって来たその子は、透き通るような肌に銀色の前下がりのショートカットがサラサラと音がしそうな12歳くらいの少年だった。
というか、めちゃくちゃ綺麗で可愛いな?!
こんな可愛らしい少年がエルフで、しかも部屋と洞窟を繋いだの?まじまじと見つめると、ランプに照らされ緑色の瞳がこちらを不満そうに見つめた。
「何か用?」
「あの、洞窟をなんで部屋に?」
「魔術で使う素材が高くて買えないから、買えないなら作ればいいと思って作ってたんだ」
こんな暗い洞窟で?
私は周囲を見回したけれど、何もない‥。
「ええと、何を作ってたんですか?」
「黒キノコ」
「っへ?」
あのウゴウゴと動くあのキノコ?!
驚く私に、ラピと呼ばれたその少年は大きくため息を吐くと、
「まったく!あれ採れる場所が限定されている上に、領主が徹底的に管理してるからうっかり盗めやしない‥」
かなり問題発言したラピさんをアシェルさんとナキルさんが「「お前みたいのがいるからだろ」」と同時に呟いた。どうやらギルドの戦士も魔王も、盗っ人に悩まされているらしい‥。
とはいえ、こんな幼い少年が自分で自給自足(?)できるなんてすごいなぁと感心していると、アシェルさんがこそっと「あいつ、あれで中年だから」と耳打ちした。ギロッとラピさんがアシェルさんを睨んだ。
「誰がおっさんだ!まったく近寄らないように結界まで張っておいたのに‥」
「結界?」
そんなのあったっけ?
私の横にいたナキルさんが何度目かのため息を吐いて、
「お前、またどうせ呑みながら結界を張ったろ。お化けもどきだったぞ」
「ええ〜〜本当?あ、そうだ。ナキルの隣の人は誰?」
急に話題が私になって、思わず自分を指差した。
「お、遅くなりました。私、おばあちゃ‥タキの孫のふみと申しまして‥宿り木荘の管理人をしております」
ラピさんは私をまじまじと見て、
「孫!?時の流れは早いなぁ〜。僕はラピ。よろしくね!」
「は、はい」
確かに言葉がちょっと年長みを感じる‥。
しかし沈黙は金。雄弁は銀である。私は金を取る。
ラピさんは私達を見て、
「まぁここまで来たんだし、せっかくだからキノコ見ていきなよ。結構いい感じに育ったんだ!」
「は、はぁ‥」
アシェルさんはラピさんの言葉に目をキラキラさせてすぐ後ろをついていき、私もその後をついて行こうとすると、ナキルさんが私の肩をトントンと優しく叩いた。
「ナキルさん、どうかしました?」
「腕に掴まっていけ」
「え?でも、今は怖くは‥」
「また何かあってアシェルと一緒に落ちたり、巻き込まれたら大変だ」
「よろしくお願いします」
気恥ずかしさもあったけれど、さっきのは本当に怖かったので私は遠慮なくナキルさんの腕に掴まらせてもらった。命は大事である。
ぞろぞろと更に洞窟の奥へと歩いて行くと、少し坂を下りたその先に円形状の広場のような場所があった。
その真ん中には水色に光る池のようなものがあって、ふわふわと光の粒が湯気のように上がっていて綺麗なのだが、池の周りにはあの黒キノコがこれでもかとひしめいていて‥。
「幻想的なはずなのに何か違う‥」
「いやぁ〜これだけ増やすのに本当に苦労したんだけど絶景だよね!」
ここでも意見の相違があった。
しかもこれだけあのウゴウゴと動くキノコがあるということは、ご町内に逃げてしまう可能性もある。どうしよう。率直に言って洞窟をどうにかして欲しい。
しかしなんと言えば角が立たないかと悩んでいると、アシェルさんが黒キノコを見て、
「あれだけあれば、黒キノコのマリネにアヒージョ、パスタもいいなぁ!タキが教えてくれたキノコスープもいいかも‥」
と、光の成分を存分に詰め込んだ笑顔で話している。
確かに食べつくすという手もあるな‥と思っていると、ナキルさんがキノコ達を見て、
「おい、あの水色の光は何を使った?まさか光コケモモじゃないよな?」
「え、そうだよ?キノコがよく好むから‥」
「あれは竜も好物だぞ」
「そうだったっけ?あ〜、年を取るのはやだねぇ!」
竜も好物‥そんな不穏な言葉を言った瞬間、
ドスン!!!と、ものすごい地響きが洞窟内に響き渡る。
「え、え?」
「‥やっぱり嗅ぎつけたな」
ナキルさんが呆れたようにそういうと、私達の向かいにある岩壁が突然バリバリと崩れ落ち、黒い岩肌から私の両腕を広げたくらいの大きさをした赤い肌に、黄色の目玉をギョロッとさせた竜が顔を出した。
「竜ぅううううう!!!!!??」
「あれはサラマンダーだな」
「あれも美味しいんだよなぁ〜」
「うわぁ!!なんで来るんだよ!!」
ナキルさんが冷静に解説し、アシェルさんはヨダレを垂らし、ラピさんは頭を抱えたけれど‥、とりあえず私は逃げてもいいでしょうか?
ワニを食べたことあるんですけど、ドラゴンってどんな味なんだろ
っていいつも思ってます。