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102号室の住人。4


二匹の大きな緑色をした蛇に埋まってしまったアシェルさん。

どうにかして退かしたいけれど、率直に言おう。


怖い。


サカバンなんとかに似ている顔の蛇とはいえ、香のせいか痺れてウネウネと動く姿は、一部の人には堪らないのだろうが私は怖い。


この二匹からどうやってアシェルさんを助けよう。

オロオロとしていると、後ろからカツカツと聞き覚えのある音がして、そちらを振り向くとナキルさんがこちらへ駆けて来る姿が目に入った。



天の神ならぬ魔王様!!!



「ふみ、大丈夫か!?」

「な、ナキルさん!!アシェルさんが蛇に埋まっちゃって!!」



ナキルさんが来てくれてドッと緊張が溶けて、ぶわっと涙が出てしまった。

そんな私を見てナキルさんが一瞬体を強張らせ、視線をうろつかせながらポケットから白いハンカチを出すとポンポンと私の目元に押し付けてから、ハンカチを手渡ししてくれた。



「大丈夫だ。あいつは勇者の孫だから丈夫だけが取り柄だ」



勇者の孫?

なんかものすごい言葉が聞こえたぞ?



「勇者の孫って‥」



すんごく対立していたもの同士がお隣さんだったの?

その事実に目を丸くすると、



「あ〜!そういう個人情報を勝手に言うなよ〜!」



呑気なアシェルさんの声が聞こえて、そっちを見ると蛇の間からひょっこり顔を出し、「せっかくちょっとふみを驚かそうと思ってたのに」とブツブツ言ってるけど、十分驚いているしなんなら恐怖まで覚えましたけど?!


「アシェルさん本当に大丈夫なんですか?!怪我は?」

「大丈夫〜。こういうのいつもだから!」

「いつも‥‥」


いつもって、異世界ってそういう事が日常茶飯事に起こるの?

確認すべくナキルさんをそろっと見上げると、


「あいつだけだ」


と、言ってくれたので自分の常識とアシェルさんの常識に相違があることだけはしっかり確認が取れた。ホッとした私を横目にアシェルさんは腰に下げていたロープで手早く蛇達を縛って肩に担いだ。



「流石に活きが良すぎるし、ギルドで一旦解体したらまたお裾分けしてやるよ」

「‥ありがとうございます。できましたら次回からは、生ものは送らないようにお伝えして頂けると‥」

「あ、そっか!そうだな!」



本当に覚えていてくれよ。

ブラック企業でやられた胃がキリキリと痛む‥。


「っていうか、ナキルがこんなことまで来るの初めてじゃねぇ?」

「え?」

「こっちには住んでるけど、あまり街へ行かないのに珍しいな」

「‥‥流石にふみの叫び声が聞こえればな」

「す、すみません!!!お仕事があるのに!!」


心配させてしまうとは、管理人失格である。

慌てて謝ると、ナキルさんは首を横に振って、



「大丈夫だ。迷惑をかけたあいつに多めに肉を貰う。また一緒に夕飯を食べよう」

「あ、なるほど!」

「え、夕飯?!ナキルって飯食べるのか?!」



ちょっと私も思ってたことをサラッと言っちゃうアシェルさんすごいな‥。

ナキルさんはふんと鼻を鳴らし、


「人をなんだと思ってる」

「え、仕事人間。だってお前普段、城と家の往復しかしないからタキがお裾分け持って突撃してたろ」


そ、そうなの?

嗚呼、おばあちゃんのお節介っぷりが目に浮かぶ。



「重ねがさねおばあちゃんがご迷惑をお掛けしてしまって‥」

「面白かったと言ったはずだが‥」

「本当ですか?うちのおばあちゃん、とにかく無茶苦茶だから‥」



私がそういうと小さくナキルさんが吹き出した。

それを見たアシェルさんが目を丸くして、ナキルさんの顔をまじまじと見て、「笑ってる!!」と驚いたけれど、結構よく笑っているような気がするけど‥。普段は無表情なのかな?



「ほら、帰るぞ。お前も蛇も目立つ」

「それならお前もだろ〜。真っ黒で魔王みたいだ!」

「‥魔王だが」



ナキルさんとアシェルさんに挟まれるようにアパートへ戻るけれど、アシェルさんはナキルさんの表情筋が動いたのを見た事に大層驚いている様子で、終始大興奮だった。


アパートへ戻ると、二匹の大きな蛇と大きな木箱を軽々と担ぎ、



「多めに作ってくるから、俺もふみとナキルと夕飯食べる!夕方、ふみん家に集合な!」



ダメとも良いとも返事をしていないのに、アシェルさんはそう宣言すると黒いドアの向こう‥、異世界へ行ってしまった。流石勇者の孫‥迷いがない?


ナキルさんはそんなアシェルさんに小さくため息を吐いた。


「‥笑ったり、しないんですか?」


一応聞いてみると、「‥笑っているつもりなんだがな」とちょっと傷ついた顔をしていた。うん、わかりやすい。



貸して貰った白いハンカチをいつの間にかギュッと握りしめていた手を少し緩め、ナキルさんを見上げる。



「ご飯の時までにハンカチ洗っておきますね」

「‥ああ」

「もう仕事ですよね?」

「‥行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい。今日はありがとうございました!」



手を振って見送ると、ナキルさんはちょっと足を止め、こちらをちょっと照れ臭そうに振り向いて、初めて手を振ってくれた。



‥う、魔王可愛いな。




分厚いお肉食べたい‥。

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