第一話『どちらに行こうか』(3)
喋れるまでに回復したハミルは、もう難民キャンプの統制のため頭を使っていた。
目下、早急にホンレスの民達の生活を整えなければいけないが、何より気がかりなのは七大厄災『運命』の謀反についてだった。
オレとハミル、そしてリンネでとりあえずの状況を共有する。
『運命』の謀反について知っているのは、政府と軍の上層部だけ。しかしホンレスの軍部は壊滅したため、上層部と言ってもハミルと各街の軍部長だけらしい。
ヨルダに対抗する手段は現状無い。そもそも味方であっても扱いが難しかったのだ。今ホンレスに出来るのは、七大厄災を管理している『調停委員会』に頼るしかない。
難民の処遇については、解決の目処がたっているようだ。
とりあえずデパトスの各領、各街で難民の九割は受け入れてくれるらしい。残り一割はアイシュムが受け入れを快諾した。
あの時の市長が頑張ったらしい。
「結局ヨルダの目的はなんだと思う?」
ハミルとリンネに問う。
復讐か、怨恨か、それとも本心から世界平和を望んでか・・・
「さあな・・・最初はあいつの妹に関係していると思ったが、多分違うだろうな・・・」
「妹っていうと、何十年も前に病気で死んだって言う?」
「ああ。まだヨルダが七大厄災になる前だ」
「その『運命』とやらのスキルはどう言ったものなんじゃ?」
リンネが説明を求める。
オレも詳しくは知らないので、知っておきたいところだ。
確かスキル名は『運命られた道』、ヨルダは願いを叶えるスキルだと言っていた。
「ヨルダのスキルは『運命』の名を冠する通り、物事の運命を決めるスキルだ。あいつ曰く時期などのある程度の設定は出来て、願った運命は必ず叶うらしい。その代わりひとつの願いを叶えてる間に他の願いは出来ないし、一回願ったら叶うまで変更も破棄も出来ないらしい」
「じゃあ・・・もし明日デパトスが滅べと思ったら、滅ぶのか?」
「多分な。七大厄災ってのはそういうものだ」
ハミルの説明にリンネはため息をついた。
深い深い、長いため息だ。
分かる・・・分かるぞ、その気持ち。どう対処したら良いのかが見当もつかない。
そして果たして『運命』はどんな運命を願ったのか?
「その妹とやらが復活するような運命を願ったのではないか?」
リンネがハミルに聞く。
オレも概ねリンネと同じ見解だった。しかしハミルは違うようだ。
「いや・・・それならホンレスを潰す必要性がない。ヨルダだったら死者蘇生のスキルを持っている奴を探すのも・・・いや、作り出すのだって容易なはずだ。それに妹が死んでから時期が経ちすぎている」
「じゃあ、ヨルダはホンレスが無くなるのを願った。もしくは他の願いを叶えるのに破壊する必要があった」
「それが妥当だな。それでもアーノルドが相対したっていう組織がヨルダと協力関係なのが謎だだな」
組織。『合唱軍』と名乗ったホンレス壊滅の首謀者達だ。
覚えている。あの気持ち悪い男。シーベルト・フェルマータ
聞くところによると、どうやらリンネも襲撃されたようだ。
難なく返り討ちにしたそうだが・・・
「あのシーベルトとかいう男はなんじゃ? 殺すのも躊躇うほど、触りたくないやつだったぞ。異様な男じゃ・・・なんと言うか、ペースを崩されるってヤツじゃ」
全くもって同感だ。『合唱軍』との戦闘中、あいつだけ少しおかしかった。
異常に呑気、とでも言おうか。
もちろん人としての焦りや恐怖は持ち合わせているように感じたが、緊迫感というのが皆無だった。
強者特有の余裕とかではなく、自分自身の行動に全幅の信頼を置いてる様な。もしくは後先考えずに行動しているだけか。
「そういえば、アーノルドならあいつらを全滅できるっていうのは本当か?」
軍基地でのリンネの発言を覚えていたのだろう、ハミルが聞いてきた。
そういえばそんな話をしたなぁ。出来るのは嘘じゃない。しかし実際に負けて、緊急的に逃げた来ただけに疑われるのも仕方がない。
「出来るけど・・・多分5年くらいはかかるぞ」
「5年・・・? 何か準備が必要なのか?」
「えーと、オレのスキルは知ってるよな? 」
「死なないだろ?」
「そうだ。死なない。消滅しても復活。あと副次効果でシールド貼れる」
「化け物だな」
ハミルは笑う。
笑い事では無いのだが・・・・
「だから魔術で暴れ回る。拘束されそうになったら自爆。復活してまた暴れ回る。これを全員が死ぬまで繰り返せばいい」
「えぐいな・・・」
ドン引きされた。
そんな事はしないと言うのに。
「実際アーノルドは、それで国を潰しているからな。まあ大昔の話じゃが」
リンネの補足でハミルはオレに白い目を向けた。ゴミを見る様な目だ。
ただの若気の至りで片すには大きすぎる過ちなのは分かっている。だからといって軽蔑はしないで欲しい。
「まあその話は置いといて・・・・ハミルはオレがあいつらを皆殺しにすることを望んでるか? 封印さえされなければ、多分出来るけど」
「いや・・・良い。やめてくれ。前も言ったがこれはデパトスの問題だ。ホンレス奪還もあいつらに罪を償わせるのも俺達の義務で責任だ」
即答だった。
兵士としての矜持か、はたまたホンレスの民としての怒りか、ハミルの眼差しは鋭い。
「・・・・って言っても、この身体じゃ俺は戦えないだろうな・・・」
悔しげにハミルは左肩をその右手でさする。
ハミルの左腕はもう生えてこない。四肢の欠損くらいなら一瞬で治療する上級回復薬だが、長く放置しすぎた怪我には効かない。時間にして二十四時間。欠損から数日経ってしまったハミルの左腕はもう治せない。
まあ生きているだけで奇跡みたいな怪我だったけど・・・
「治してやれなくて悪かったな」
励ましの言葉でも投げかけようとしたその時、背後から急に声がした。
突然の乱入にオレだけでなく、ハミルとリンネにも緊張が走る。
常日頃ぼけーとしてるオレはともかく、リンネにの背後を取れる者などそうそう居ない。
したり顔で、否、人を小馬鹿にしたようなひょっとこの面を被った男がオレ達の背後に立っていた。
視界に入っているとう言うのに、目を細めて注意深く見ないと見失うほどに、ザカリアの存在感は無い。




