第三十話『合唱軍』(2)
右手で『大炎花』
左手で『水穿』
二つの相反する属性の上級魔術を押し当てる。
この反発によって生まれる魔力の発散。その威力は魔力密度と魔力量に比例する。
初級魔術を合わせると建物を破壊するほど。
中級魔術なら竜の装甲を破壊する。
上級魔術から生まれる爆発は計り知れないものになる。文字通りこの世の摂理を穿つほどの威力を瞬発的に発する。
全部まとめてぶっ飛ばしてやる!!
オレの近くに引き摺り込まれた敵達は慌てて距離を取ろうとする。もう遅いとは知らずに。
二つの魔術がオレの手の中でぶつかり合い、眩く白い光が辺りを包みこむ。
意外とあっけなく終わったな・・・
そう思ったその瞬間だった。
黒髪の男の不敵な笑みが目に入る。
「ポウッ!!」
男の軽快で不快なその音と同時に、白い光はオレンジ色と青色へと代わり、オレの右方に業火を、左方に水の一閃を生み出す。
魔術の反発に失敗した・・・!?
もしかしてあの男に何かされたのか?・・・いや、ただ単に十回に一回の失敗をしただけだろう。
ちくしょう、今ので両腕吹き飛んだ・・・やっぱり魔力シールドが無い時にやるもんじゃないな・・・・
好機と見たのか、メガネがオレの足元を剣で払う。
膝から崩れ落ちたオレは、ガイアの視界に入ってしまった。
硬直するオレを前に、黒髪の男が勝ち誇った目で近づいてくる。
相変わらず、気味の悪い雰囲気を纏っている。
「やっと隙を見せてくれたね〜。いきなり殺そうとしてくるなんてリンネさんもアーノルド君も物騒だね〜」
「お前・・・リンネを知ってるのか?」
「はい。出来たら仲間にしようと思ったんですが・・・断られちゃいました」
「仲間・・・? お前ら本当になんなんだ!?」
「何って・・・ただの世界平和を望む善良な奴の集まりですよ・・・」
世界平和ねぇ。
いつの時代もいるもんだ、そんな大言を語る奴が。
「・・・・これで会うのは5回目だ」
「何がです?」
「お前達みたいな奴らの事だよ・・・」
「世界を変えようと思ってる奴って事ですか?」
「違う。そんな奴はごまんといた。その量産型の中でここまで成し遂げた奴らがお前らで5回目だ」
黒髪は興味ありげに首をかしげる。
「・・・その5回の中に世界を変えた人はいるんです?」
「ああ、一人・・・とびきりの偽善者がな・・・」
「それはそれは励みになりますね・・・っと、もうそろそろお別れですね」
男の後ろでメガネが黒い箱を持ってきているのが見えた。
ガイアがオレを封印しようとした時の魔具だ。
万が一のため罠魔術を身体に貼っておいて良かった。ネイがいない今、あの箱から逃れる手段はなさそうだ。
「アーノルド君。大人しく封印されてください。そしたら確実に殺してあげます」
黒髪の男がどこかで聞いたようなフレーズを言う。
ここまでコケにされたのも久々だ。
「・・・全く、どこの誰の入れ知恵だ? それでオレが何でも受け入れると思うなよ。もう理解した。お前らオレを殺せないだろ?流石にもう分かってきた」
「あちゃ〜・・・やっぱりダメか・・・」
緊張感など微塵も感じさせずに、黒髪は微笑む。
メガネから箱を渡されるも、必要ないと放り投げてしまった。
もう罠魔術が発動する。
オレの体は爆散し、またネイの元にスポーンするだろう。
せめて最後に・・・・
「復活したらすぐまた来るからな。首洗って待ってろ、・・・・・ええと」
そういえば名前を聞いていなかった事に気づく。
「ああ、申し遅れました。シーベルト・フェルマータです。そして僕達の組織名は・・・」
「ええ!? 組織名決まったんです? この何年間も後回しにしてたのに!」
メガネの遮りと不満にむくれながら、黒髪は続ける。
こいつらは緊張感というものをどこに置いてきたのか・・・
「組織名は『合唱軍』です」
「・・・『合唱軍』?」
「ええ、僕好きなんですよ、オーケストラ。見たことあります?全員が楽譜と指揮者の言いなりになってピッタリ演奏するんですよ。あれが僕の理想なんですよ〜」
オーケストラを何だと思ってるんだ?
全くコイツは何をどこまでバカにすれば気が済むんだ?
「それでは、また・・・次会う時には殺してあげますね」
「・・・楽しみにしとくよ」
爆炎がオレの身体を包みあげ、全ての肉片と細胞を燃やし尽くした。
一応『反発』と表現した物の説明です。
この世界では魔力だけを放出するのは不可能で、五属性のどれかの性質に変化させた魔力だけを放出できます。それが所謂、魔術と呼ばれる物です。
この『反発』では火の魔術と水の魔術という相反する属性の魔術を、同タイミング、同出力、同魔力量でぶつけ合わせることで、火と水の属性だけが消えるという現象です。属性が消えた魔術はただの魔力の塊となり、本来不可能な魔力だけを放出することが可能になります。
それを応用した大爆発が今回の『反発』です。
アレク王国の迷宮攻略で使った技も同じです。
詳しくは今度、作中で書きます。




