第二十八話『運命に従って生きる』
スキルの使用を無制限に許可。
飛行魔術、もしくは滞空が出来るものはドラゴンを相手取る。
二時間経ったら、逃亡を許可する。
ハミルの指示はたったこれだけだった。
兵士たちは東門を急ぐ。
東門の続く道路は黒く塗り潰されていた。進軍を止めない魔人達が、隙間なく道を埋め尽くしている。
「魔術隊、発射ー!!」
大量の水が街に洪水を起こす。押し流された敵達にすかさず、雷の魔術を放り投げる。
断末魔をあげながら倒れていく魔人達を隠すように、岩の壁が道路を塞ぐ。
よし!・・・街内での戦闘ならこちらに分がある。魔人達の足止めは当分できそうだ。
でも、問題は・・・
対空隊を蹴散らした竜が岩の壁を掴んで壊す。まるでクッキーのように崩れた岩のカケラを力任せにぶん投げる。
「これは、俺の領分だぜ!!」
威勢の良い冒険者が、飛んでくる岩の前で仁王立ちをする。
岩は男の威勢に屈したように、飛ぶのを止めてその場に落ちる。
「さすが、Bランク冒険者 ゼルク・べロス。彼の前ではいかなる遠距離攻撃も意味をなさない。彼の視界に入ったら、ドラゴンの礫も美女の心も落ちてしまう!!」
謎の解説役に兵士たちは盛り上がる。
しかし悲しいかな。
飛来物でない竜の爪はゼルク少年の体を簡単に引き裂いた。
竜は暴れ回る。
オレのいた部隊は早くも半壊だ。
竜レベルだと、上級魔術しか効かないぞ・・・
仕方ない、何人か巻き込むだろうが許してくれ。
詠唱を始める。
しかし今日3回目になる、魔術のキャンセルをされる。
ついでに道路を塞いでいた壁も、魔人達を流した水も消失してしまう。
ああ・・・もう!!
魔術を霧散してくる奴が厄介すぎる!
あいつがいるだけで、攻撃の選択肢が狭まる。
しかも未だに発動者の姿が見えない。
ちくしょう! やってやるよ・・・!!
ゼルク少年の剣を拾い上げ、魔人の群れに突っ込む。
兵士達もオレに続くように魔人の群れに突っ込み始めた。
ここなら竜も手が出しづらいはずだ。
ー
気がつくとオレの部隊には、誰も残っていなかった。
竜が敵味方関係なく魔術を放ち始めたからだ。
やはりそういう線引きを瞬時に出来るだけ、竜は手強い知性生物だ。
はぁ・・・ちょっと疲れてきたな・・・・
あとどんくらい時間稼ぎをすれば良いんだ?
もうそろそろ体力的に限界だ。
特に魔力シールドと魔術が使えない今、痛みに堪えながら特攻しないといけないのが中々にキツイ。
竜に吹っ飛ばされる。
即座に体勢を立て直し辺りを見渡すと、軍基地に戻ってきている事に気づく。
もうここまで戻されたか・・・
その時だった。この乱戦の中、男の声が街中に響き渡った。
「南地区、東地区、全ての住民が北地区、西地区までたどり着いたと報告があった。総員、街に火をつけながら早急に退避せよ!!」
ハミルの声だ。
彼の指示を皮切りに生き残り達が逃げ出す。
煙幕を張りながら街の間を縫うように走る。
全員無事に逃げ切れる事を願いながら。
ハミルはオレの隣に降り立つ。
痛々しい戦闘の後を見せつけるかのように、彼の左肩から下は消滅していた。
「ハミル・・・大丈夫か?」
「うん?・・・ああ、大丈夫、大丈夫。こんなのかすり傷さ。今すぐに逃げるぞ」
「ああ、ハミルもな・・・って何やってるんだ?」
包帯で雑に止血をしながら、ハミルは元帥室の中に入る。
数十秒後、辛そうに呼吸を続けるハミルが部屋から姿を表す。
「今、軍基地を全部ぶっ飛ばす威力の爆弾のスイッチを押してきた」
「爆弾・・・!?」
「ああ、これでもう少し時間稼ぎが出来るはずだ。10分後に爆発するから、急ぐぞ!!」
逃げよう。全部吹き飛ばして逃げてしまう。
軍基地を背後に駆け抜けるオレとハミルの周りには、火に包まれた優雅な街が映っていた。
ろくに走れないオレ達を追いかけるように、絶望の象徴が太陽を覆うように空を飛び回る。
オレはともかく、ハミルは悔しいに違いない。
彼の守るべき街はもう無くなってしまったのだから。
あまりのショックからか、はたまた戦闘で頭を打ったからか、ハミルは泣きじゃくりながら笑っていた。 よろけそうになりながら、鼻水を垂らしながら。
街は無くなった。でもまだ人がいる。
ハミルが守り切った人々には明日があるのだから、彼にも明日は来るのだろう。
だからオレ達は振り向かない
・・・はずだった。
「ハミル、アーノルド、逃げるのかい?!」
悪魔の囁きがオレとハミルの足を止まらせる。
その声の主はとてつもなく強大な雰囲気を、その身体から醸し出している。
いつもの飲んだくれのそれとは違った。
何で・・・お前は死んだんじゃなかったのか・・・?
「ヨルダァアアア!!!!」
ハミルの咆哮に七大厄災『運命』ヨルダはニヤリとほくそ笑んだ。
まるで今までのオレ達の行動全てが予測通りだったと言わんばかりに。
「そうか!! お前だったんだな!! 確かにこのレベルの襲撃を用意できるのは『厄災』だけだ!! 何でだ?! 何で『厄災』が自国を滅ぼそうとする??」
過呼吸になりながら、ハミルは叫ぶ。
はぁ、と大きなため息をついたヨルダは、悠々と間合いを詰めてきた。
「全く・・・いつから『厄災』は国を守る存在になったんだ? 文字を見ろよ、『厄災』はどこまで行っても、ただの災厄なんだよ」
「目的はなんだ?! お前は何が欲しいんだ?」
「目的・・・? さあな、俺はただ運命に従って生きてただけだぜ」
「運命・・・・??」
「ああ、今日この日にホンレスが襲撃されたのも。『平和』がデパトスに侵攻してきたのも。今日が雲一つ無い良い天気なのも。何もかも全部、ぜーんぶ運命の女神様のいう通りだ!」
ハミルは満身創痍の身体を引きずりながら、剣をヨルダに振り下ろす。
剣がヨルダの胴を捉えたその瞬間、オレ達は爆風と共にぶっ飛ばされる。
約6分後に爆発するはずだった爆弾が爆ぜたのだ。
理由は誰にも分からない。
強いて言うのなら、運命のいたずらとでも言おうか。
もうそろそろ、ホンレスから抜け出せそうです。
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