第二十七話『残りもの達』
相変わらず嫌になるほどに青い空に、ドラゴンの咆哮が鳴り響いている。
しかし竜達が運んできたのは春の風ではなく、ホンレスを吹き飛ばす暴風なのだろう。
ハミルの指示を聞いた兵士達は、次々と物資と怪我人達を馬車に乗せていく。
迅速な対応だ。日頃から訓練していたのだろう。
まさか本当に必要になるとは思っていなかっただろうけど・・・
「助けはいるか? アーノルドよ?」
聞き覚えのある声がした。
人間の少女の声に、妖艶さと母性を合わせたような音色だった。
「リンネ!! 無事だったか!?」
「当たり前じゃ・・・遅くなって悪かったのう」
「どうしたんだ?」
「なに・・・ちょっと小竜と戯れておっただけじゃ」
リンネの方にも刺客が送られてたのか。
ガイアにリンネの事を教えたのが間違いだった。
「して状況は・・・?」
「オレ達はホンレスを捨てて逃げる。まあ、最後にちょっとだけ残って時間を稼ぐそうだけどな」
「しんがりを手伝えと?」
「いや、リンネはネイと一緒に逃げてほしい。オレが合流するまでの護衛を頼む」
「あの小娘か・・・随分と目を掛けておるの。さては惚れたか?」
「そんなんじゃないよ・・・まあ、じきに分かるさ」
ふーん、とニマニマした表情でリンネはオレの顔を観察する。
どんな勘違いをされているのだろう。
からかいを入れつつ、リンネは快く引き受けてくれた。
「あいわかった。しかし疑問じゃな。お主が本気を出せば、あんな連中皆殺しにできるじゃろ?」
「・・・できるかもしれないけど。今回は守りたいんだよ」
「そうじゃな。英雄とは守るものじゃ」
そう・・・守るために戦うんだ。
守るものがないのなら、戦う意味がない。
オレとリンネの話を聞いていたのだろう、恰幅な老人がオレに掴みかかる。
「今の話は本当か!? できるのか!?」
老人の揺すりに脳が揺れる。疲れているから、やめて欲しい。
「市長、おやめ下さい!!」
ハミルが慌てて止める。
市長?
ああ・・・ホンレスの市長か。
ハミルに気づいた老人は、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ハミル・・・!! さっきの放送はお前か?」
「そうです、そちらの判断を待たずに申し訳ありません」
「いや・・・良い。政府の判断が遅かったのが悪い。辛い判断をさせたな・・・」
「いえ・・・」
どうやら悪いやつではないようだ。
市長は思い出したかのように、オレの方を振り向く。
「それで、出来るのか!? 君なら魔物達を全滅させられるのか?」
まずい・・・少し面倒臭い事になった。
この時代では英雄なんかになりたくないのだが・・・
しかも全滅となると何年かかることやら。
「市長。それはただの戯言でしょう。ただの冒険者がそんなことも出来るはずもない」
ハミルが助け舟を出してくれた。
誰でも良いから頼りたいこの状況で、そんな事を言えるハミルは大人だ。
もしくは、軍人としての責任か。
「そうだな・・・悪かった。冷静じゃなかっった」
「市長も早くお逃げ下さい」
オレを解放した市長を、ハミルは馬車へと促す。
「否。私もここに残る。市長としてこの街が沈むのなら、共に沈もう」
おお、かっこいい。市長、あんた漢だよ!!
しかしオレの感動と裏腹にハミルは市長を力づくで馬車の荷台に放り投げた。
市長が腰をいわさないのを切に願おう。
「いや! 要らないっす、市長。逆にあんたみたいな老人がうろちょろしてる方が迷惑だ!」
「ハミル・・・お前!!」
「・・・市長、役割分担です。あんたら政府の老人はふかふかの椅子に座ってて下さい。私達デパトス軍が、命を以てあなた達を逃します。その代わり・・・命をもって逃げた先で人々の生活を保証するのを約束してください」
「・・・ああ、約束しよう。そしてハミル、お前が次の元帥になることもここに約束する」
「多分それは役不足ですよ」
そんな訳ないだろう。
恐らく市長も同じことを思っているはずだ。
怪我人と市長を乗せた馬車が猛スピードで軍基地を飛び出す。
基地に残っったのは、数百人ほどの勇敢な兵士と、数十人の冒険者だけだった。
さて・・・この人数で何時間食い止められるだろうか。
そしてこの中に敵はいないことを願おう。




