第二十六話『ハミルの判断』(2)
<アーノルド視点>
ハミルが掴む通信機器は、兵士達の命の消える瞬間を音にする。
『こちらホンレス南地区。ドラゴンの出現で暴徒の鎮圧に手が回りません増援を!!』
『こちら東地区。暴徒による破壊で甚大な被害を受けています!! 『運命』はまだですか?!』
『こちら救護班!!全ての回復薬が枯渇しました!!』
『こちらは壁外。扉の閉鎖を確認しました。ドラゴンを一体倒したものの、魔物の群れは半分以上残っております・・・それでは・・・ご武運を・・・』
通信が次々に切れていく。
ダメだ・・・竜の脅威がデカすぎる。魔物と暴徒達に手が回ってない・・・
「カルドスからの連絡はまだか!?」
ハミルは叫ぶ。
遂にホンレスは七大厄災を頼るほかなくなった。
しかし厄災からも連絡が来ない。探しに言ったカルドスからもだ。
いくら何でも遅すぎる・・・・まさか暴徒にやられたのか・・・?
いや、それは無いと思う。暴徒にやられるほどカルドスは弱くない。
拳を握りしめながら、ハミルは各地区に指示を出していく。突如として彼の耳に魔術陣が浮かび上がる。
そこから聞こえたのは行方不明だったカルドスの声だった。
「カルドス! 無事か!? 今どこにいる!?」
『ハミルさん、こちらカルドス無事です。多分・・・市場の方にいます』
『そうか。それでヨルダはそこにいるのか!?』
「それが・・・」
カルドスは言い渋る。
嫌な予感がした。
『すみません・・・ヨルダは竜によって死にました』
ハミルは絶句する。
カルドスの震えた声が、聞こえてくる。
『・・・ハミルさん、状況を教えてください。!!今は『運命』がどうしても必要な状況なんですか!?』
最早ハミルの耳にはカルドスの声は聞こえていないだろう。
ハミルは俯き、頭を抱える。
『運命』 七大厄災の不在。
オレには未だにピンときていないが、その絶望はきっと計り知れないものなのだろう。
過呼吸になるハミルを横目に、通信機から新たに兵士からの報告が届く。それもまたハミルとホンレスを絶望の底に叩き落とすのを加速させる。
『こちらデパトス東地区!! 東門が・・・突破されました 大量の魔物が押し寄せてきています!!』
この報告でホンレスの全ての希望は潰えた。
理性を失い暴徒と化した一般人と兵士たち。
上空を飛び回りながら魔術を放つ大量の竜。
これから街の中へ侵攻を始める、知性ある魔物の群れ。
そしてそれら全てを止めらられる可能性があった、デパトスの切り札、『運命』の死亡。
もう収集がつかない。
ホンレスは負けたのだ。
未だ見えない黒幕たちの謀略と戦力を前になす術もなく敗れたのだ。
そうか・・・遂にこの街も終わりか・・・
一応だが勇者達との思い出の地だっったんだけどな・・・・
また一つ歴史が終わるのか。いや・・・始まるのか・・・
「おい、ハミルどうする? ホンレスはもうダメだぞ」
オレの発言に近くの兵士が噛み付く。
「何を言ってるんだ!ここは人口8万を超える、大都市だぞ!!」
「だからこそだ! 早く決断しないとその8万人が死ぬぞ」
分かってるよ、と言いたげにハミルは力無く顔を上げた、
今ホンレスに暮らす全ての命はハミルに委ねられている。
酷だが仕方がないことだ。
守るのか・・・それとも捨てるのか・・・
「・・・・なあ、アーノルド。お前なら・・・勇者一行の魔術師様ならこんな時にどうする?」
すがるようにハミルは聞いてきた。
「もう嫌なら全部捨ててもいいんだぞ。オレが全部背負ってやるから」
オレの言葉にハミルはハッとする。
「いや、悪かった・・・これは俺達の問題だったな・・・そこの君、あれを持って来てくれるか?そうだ、ホンレス全土に送れるやつだ」
ハミルの指示で兵士は謎の筒を持ってくる。
歩兵隊隊長の目には決意が宿っていた。
『全ての住民に告ぎます!! 今すぐ、この街から逃げてください!! ホンレスの南地区、西地区にいる方は、即刻! 北か東に逃げてください!! 今すぐこの街を捨てて逃げてください!!!!』
ああ・・・これがホンレスの死に様か・・・
オレの方を振り向き、ハミルは気丈に振る舞う。しかしその拳は微かに震えていた。
「なあ・・・アーノルド・・・最後に一つ頼まれてくれるか・・・?」
「何だい?」
「俺はこの街で時間を稼ぐ・・・ずっととは言わない、フィリア達の事を頼んだ・・・」
「・・・・・」
そんなことお安いご用さ、ハミル・・・でもな・・・
「オレも残る」
「いや・・・でも・・・」
「見たいんだよ、この街が終わるところを・・・ってこんな言い方は酷いか・・・」
でもオレは見ておかなくちゃいけない、転換点を。
それが多分、オレが生きてる意味だから。
「そうか・・・じゃあしばらく背中を預けさせてもらうぞ、アーノルド」
「こんな小さな背中でよければいくらでも」
それじゃあ、全部終わらせようか。




