第二十五話『運命始動』(2)
<カルドス視点>
「お〜い! ヨルダさん、緊急だ出てきてくれ!!」
掛け声はただただから回るだけだ。
ヨルダのいそうな酒場を何件も回ってみるも音沙汰なし、こういう時に限ってあの人は見つからない。
叫び回る俺の姿を見て、人々は切迫した雰囲気を感じ取る。
この前の『平和』の件もあり、住人達は軍の動きに敏感になっている。
「おい! カルドス!! ヨルダさんを探してるって事は、ヤバイのか!? ただの魔物大侵攻じゃないのか??」
八百屋の店主が尋ねてくる。
確かにただの魔物大侵攻とは毛色が違うような気もするが、変に不安を煽る必要はないだろう。
ここは無難に・・・・
「いや、大丈夫です。本当の万が一に備えて・・です。ですが念のため避難の準備をお願いします」
「それこそ万が一だろう? 頼りにしてるぜ!」
八百屋の店主の豪快な笑い声が通りを包む。
全く呑気なものだ・・・外では兵士達が命懸けで戦っているというのに・・・
いや。それを言ってはお終いだろう。彼らは彼らの生業で国を支えている。国防は軍の生業で、八百屋の彼に文句を言える筋合いはない。
そういえば・・・なんで俺は兵士になったんだっけ・・?
両親を亡くしハミル隊長に拾われた時を思い出した。
似たような境遇の俺を可愛がって、兵士として自立するまで目をかけてくれたハミルさんには頭が上がらない。
何の目的もなくハミルさんの後を追って兵士になることを選んだが、今ではいい判断だったと思う。
自分で言うのもなんだが手先が器用なので剣術などもすぐに上達した。スキルも兵士向けの当たりスキルだったのが幸いした。
出世欲こそないものの、今でも充分に給料を当てがられているので生活には困っていない。
俺の安寧な生活のためにも、今は『運命』を一刻も早く保護しなければ・・・
ー
「カルドスちゃん。あたしゃあっちでヨルダさん見たよ!」
呉服屋のおばちゃんが路地裏の方向を指さす。こう言う時のおばちゃんは便利だ。どこからか有益な情報を持ってくる。
「ありがとうございます!!」
急いで教えてもらった場所へ向かう。
しかしこの辺りには酒場はなかったはず。まああの人も四六時中酒場にいる訳ではないのだが。
「ヨルダさーん。いたら返事をしてください! ハミルが呼んでいま・・・」
人目の少ない路地裏でヨルダの姿を見つける。
しかしそこにいるのはヨルダだけではなかった。美しく蒼い長髪の少女がヨルダと向き合っている。
理由は分からないが、咄嗟に隠れてしまった。
それにしてもあの少女は誰だ・・・? ヨルダには娘はおろか家族さえいないはず・・・
二人の会話が聞こえてくる。
「なるほど・・・ついに始まったか・・・」
「おう、やっとガロ。遂に運命が動き出したガロ!!」
始まった? 何の事だ?
そして何故ヨルダはあんなに神妙な面持ちなんだ?・・・あいつらしくない。
「・・・それで、これはどうしても必要なのか?」
「あの人の・・・ガロ達のボスの要望ガロ」
「そうかい、じゃあ一思いに頼む」
「遺言は?」
「それこそ必要ないだろ・・・」
「そうだと良いガロ」
少女はその手の平をヨルダの胸に当てた。膨大な魔力が少女の手に収束されていくのを肌で感じる。
目をこらすと少女の腕が見る見るうちに変形していく、何か鱗のようなもので覆われていくような・・・・
・・・って、そんな場合じゃない!! あの魔力量はヤバイ!!
魔術をあまり齧っていない俺でも分かる。あの魔力量は上級魔術と同等だ!!
「ヨルダ! 危ない!!」
咄嗟に身を乗り出すも判断が遅かった。
爆音と共に業火の渦が少女の手から放出され、ヨルダの全身を包み込んだ。
周囲の家屋も爆風で吹き飛ぶ。身体を激しく地面に打ち付けられる。
くそ・・・ミスった!!
何でもっと早く飛び出さなかったんだ!!
自分を責めつつ、犯してしまった失態の大きさを改めて実感する。
この国の切り札をみすみす死なせてしまったという事に気づく。
この街の希望がいなくなった事実が脳を揺らす。
あれ・・・もしかして・・・本当に『運命』が死んだのか?
それだとこの国はどうなる?この街はどうなる?
「お前・・・誰ガロ?」
座り込む俺を覗き込むように『運命』を屠った少女がニコリと白い歯を見せた。やたらととんがった彼女の歯を見ると、彼女が人間の少女出ないことに気づく。
「お前こそ、何者だ・・・何で『運命』を殺した?」
「『運命』・・・? ああ、あいつの事ガロ? 何でって言われてもボスの指令だからとしか言いようがないガロ」
ボス?・・・・この襲撃の首謀者か? それにしてもこの雰囲気、腕の鱗の感じはまるで・・・
「もしかしてお前、『竜人』か?」
「竜人? ガイアと同じ様な事をいうガロね」
「ガイア・・・? ガイアってもしかして・・・」
顔を上げると少女の鱗で覆われた手が視界を埋める。
ヨルダにやったように少女の手の平に膨大な量の魔力が収束していく。
「ヨルダの件を片付けた後は暴れ回れって言われたガロ。手始めにまずはお前ガロね!!」
せめて・・・せめて・・・『運命』が死んだ事を伝えないと!!
どうやら少女は俺の失態を挽回する猶予もくれないらしい。
俺の罪を嘲笑うかのように、竜人の業火が俺の身体目掛けてぶっ放された。




