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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
デパトス編
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第二十五話『運命始動』

<アーノルド視点>


 ホンレスの古めかしく優雅な街並みが崩れて行く。

 オレは軍基地に急いでいた。途中、混乱に乗じた暴徒達に襲われるも、辛うじて撃退した。


 こうなると懸念させるのが『赤い糸(ラブ・フェルト)』の皆だ。この混沌の中、無事に避難できているといいが・・・


 リンネも全然来てくれないし、どうしすれば良いものか。


 軍基地に着くと、そこには想像通り大量の野次馬が群がっていた。


 間を縫って前列へ行く。

 軍所属である証(ペンダント)を見せると、すんなり中に入ることができた。


 ハミルの姿を見つける。

 先程とは打って変わって、疲弊した表情がチラつく。ハミルの腰に差す剣と着ている鎧には、大量の返り血がついていた。


「ハミル、大丈夫か!?」


 慌てて駆け寄ると、憔悴しきった顔で淡々と今の状況を説明してくれた。


 ホンレス中で現在、不特定多数が錯乱し、破壊行為を行っているらしい。一般人も冒険者も兵士でさえ突如発狂し暴れ回って対応に追われているそうだ。


「どうしてそんなことが・・・スキルか!?」


「おそらくな・・・でも暴徒と化す者とそうでないものの基準が見えない。範囲指定では無いのは確かだし、なった奴らに共通点も見えない。そうなると・・・」


「接触によるスキルの対象指定か?」


「多分な。しかし俺の目の前にいた数人の兵士達は何の前触れもなく、錯乱を始めた。もちろん誰かに触れてなどいなかった」


「ある程度の時間を調整出来るとしたら?」


「いや・・・流石にこの人数を今日この時間のピンポイントで調整出来るとは思えない。スキルの強力度から言って、使用できるのは日に5回くらいが限度だろうし」


 確かにハミルの見解は的を得ている。


 スキルとは便利で強力で恐ろしいものだが、ある程度の制限というものがある。

 使用回数だったり効果範囲だったり様々で、大抵はそのスキルの強力度と反比例する。


 情報が少なすぎて断定はできないが、おそらく複数のスキルを組み合わせないとこんな状況は作れない。


 オレが現状把握しているのは、


 ガイアの対象の動きを制限するスキル。

 誰かは分からないが、魔力を霧散させるスキル。

 街を混乱に陥れた、人を錯乱させるスキル。

 そして恐らくだが、魔物達の知能を底上げさせたスキルもある。


 何人が今回の事件に関与しているんだ・・・?


 一人の兵士がハミルの元に駆け寄ってくる。


 この状況の中、兵士は心なしか安堵の表情を浮かべているように見える。


「ハミル隊長! アイシュムより報告! 首都ネステムで発生した魔物大侵攻の壊滅及び鎮圧が完了したとのことです。今現在、アイシュム軍が援軍としてこちらに向かってきているとの事!!」


「おお! そうか!!」


 アイシュムはもう魔物達を鎮圧したのか・・・いくら何でも早すぎやしないか?

 デパトスの軍の方が強いと聞いていたが・・・


「それで援軍はいつ到着する?」


「それが・・・早くても5日後との事です・・・」


「そうか・・・」


 五日後。早いような遅いような気もする。

 そして援軍が来たところであの量の竜達に対抗できるとは思わない。


「仕方がない。もう『厄災』を使うしかないだろうな」


 ヨルダを・・・デパトス最強の切り札を使うということだ。

 デパトスの厄災はこの現状を打破できるのか?


「しかし政府が許可を出すかどうか・・・」


「どのみちホンレスが沈んだらデパトス自体が混乱に陥る。流石の頭でっかち共も重い腰をあげるだろう・・・元帥のところに行くぞ」


 元帥室を目指すハミルから乾いた鉄の匂いがする。いつものように足並みが揃わない。ノックも無しに元帥室の扉を開ける。


「元帥!! 現状は把握してますね!? 『運命(ヨルダ)』の出動要請を!!」


「・・・・・」


 元帥は沈黙の中にいる。

 街の存亡を左右する判断を、オレ達は固唾を飲んで見守る。


「・・・今回の事件の首謀者はエイレだ・・・」


 満を持して口を開いた元帥の言葉に、戦慄が走る。


「エイレ共和国ですか・・・? 何か知っているのですか!? 今回の襲撃について!?」


「間違いない! エイレだ!! あいつらが全部悪い! ハミル、今すぐエイレに向けて出軍するぞ!!」


「・・・元帥?」


 両目を見開いた元帥が椅子を薙ぎ倒す。前の静かな鋭い威圧は感じなかった、逆に荒々しい口調と剣幕で暴れ回り始める。


「元帥、何を言っているのですか!? エイレが関与しているという証拠は!? そんな事よりも今は、『運命』の使用許可を!!」


「エイレが悪いんだ!!」


 勢いのまま元帥はハミルに掴みかかる。

 動揺を隠せないハミルの代わりに元帥を取り押さえるも、物凄い力で押し返された。


 まさか、コイツもか・・・・


「ハミル、やられた! 元帥も錯乱状態だ!!」


「そんな・・・」


「ボサっとするな取り押さえろ!!」


 手こずりながらも元帥を無力化する。

 未だ動揺するハミルは棒立ちのままだ。


 しかし時間は止まってくれない。

 追い討ちをかけるように兵士が元帥室に飛び込んでくる。


「竜騎士ドラコ墜落! 5体のドラゴンが壁上を通過しました!!」


 数秒の沈黙。


 ハミルは両の頬を叩き、大きく深呼吸する。

 拳を強く握り締め、。元帥の机の上に置かれた筒に向かって威勢よく宣言する。


『只今より!! デパトス軍歩兵隊 隊長ハミル・アルバートが軍の全指揮権を握る! ホンレスにいる兵士に告ぐ!! 先ずは一般人の安全確保、暴徒の鎮圧。そして壁外の生存者の有無に関係なく、扉を封鎖する。今回デパトスは七大厄災『運命』を使用してこの襲撃に収集をつける。それまでどうか耐えてくれ!』


 ハミルの判断を止めるものはいなかった。

 報告に来た兵士達も大きく頷くしかなかった。


 そういえばカルドスは、もう『運命』を見つけられただろうか・・・?

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