第二十四話『僕がラスボスです』
第三者視点で書いてみました。
<ミロデ森林>
リンネは待機していた。
魔物達の地面の揺れ音で起きたリンネは、状況を即座に理解するも自分の次の行動を決めあぐねていた。
彼女の中身は人間。スキル『輪廻』でドラゴンの身体に転生した大昔の魔女だ。
心は人間。身体は魔物。
目の前で勃発している魔物と人間の戦争に参加するべきか、そしてどちらの味方をするべきかを決めるのは容易ではなかった。
このような場合のために、リンネはあらかじめ決めていることがある。
それは『立場も権利も義務も関係なくアーノルドの味方をする』ということをだ。
故にリンネはアーノルドから呼ばれるのを待っていた。
しかし一向にアーノルドから呼び声がかからないリンネは、夢苺の甘い香りを枕に不貞寝していた。
ザッ・・・ザッ・・・
草木を踏みしめる足音に再び目を覚ます。
足音の感覚からして人間だろうとリンネは結論づける。
この森に人間がくることは珍しい。
昼寝を邪魔されたこと、そしてその他アーノルドへの不満からリンネの頭には文字通り角が立っていた。
毒のブレスで吹き飛ばしてやろう思うも、アーノルドに叱責を受けると思い矛を納める。
人間はリンネの存在に気づいていないのか、足音が段々と近くなる。
どんな人間か一目見てやろうと重い瞼を開ける同時にリンネは飛び起きた。
いつの間にか鼻先に触れるほどの距離にいた人間の男が、あまりにも異様な雰囲気を醸し出していたからだ。
ここまでの異様な雰囲気。リンネは彼女の生涯で、否、今まで生きてきた時代においてもたったの3人しか感じた事がなかった。
一人はもちろんアーノルド。彼と一番最初に会った時。
二人目は勇者ギムレット。勇者もまた強く神々しい雰囲気を放っていたのが記憶に新しい。
しかし目の前にいる男の雰囲気はまるで泥のようだった。ドス黒く、一度触れたらそのまま全てを台無しにされるような。
同時に男から強者の空気は感じなかった。下手をすると、そこらのホーンラビットにも負けそうなほどに 弱々しそうな体躯。
前前世で大魔女。前世では聖騎士。そして今世でドラゴンのリンネにとっては取るに足らない矮小な存在のはずだった。
リンネは男から目を離せない。否、離したいが本能が危険だと告げている。
「こんにちは!! リンネさんのお宅はこちらで間違いないですか?」
にこやかな笑顔で男は笑う。ドラゴンと相対しているというのに、呑気なものだと思う。
男と会話をするために、リンネはスキル『人化』で人間の姿になる。
「そうじゃが・・・お前は何者じゃ?」
リンネの返答に男は目を輝かせる。
「すごーい!! まさか本当にいるなんて! あれですよね? 『終円』の大魔女リンネさんですよね? その昔、魔王の円卓に単身乗り込んで壊滅させたっていう!!」
男の言葉は事実だ。確かにリンネが魔族達の会議に乗り込み、四天王を二人屠ったという史実はある。
だからこそ妙だった。
その話はもう1000年も前の話。人間の男が知る由もない。
そもそも男が如何にリンネの転生について知ったのかも疑問だった。
「お前は誰じゃ?」
「後でサインもらったり出来ます?」
リンネは無視されるも負けじと繰り返す。
「・・・お前は誰じゃ?」
「あ、握手もお願いします! 昔からファンなんです!!」
「お前は何者だと聞いておるのじゃ!!」
竜人の咆哮が森を揺らす。
リンネの怒号に男の身体も吹っ飛ばされた。
ため息をつきながら。男は立ち上がる。
「も〜 そんなにせかせかしないで下さいよ。物には順序ってものがあるんですから〜」
「お前が名乗るのが先じゃ」
「だ〜か〜ら〜 そんなに急かさないで下さいよ。名前ですね、言いますよ言えば良いんでしょ?」
男は飄々と言う。
「初めまして シーベルト・フェルマータと申します。以後お見知り置きを・・・」
シーベルト。リンネはこの名前をどこかで聞いた事のあるような気がしていた。しかし思い出せずにいた。
突如として男はリンネの目を一点に見つめて黙り始める。沈黙が空間を支配する。
「もしかしてじゃが・・・あの魔物大侵攻はお前の仕業か? シーベルトとやら」
「そうですそうです。さすが大魔女さんは話が早い!!」
「侵攻の目的はなんじゃ・・・?」
リンネの質問にシーベルトはニヤリとほくそ笑む。
「・・・リンネさんは、この世の中で一番大切なものってなんだと思いますか?」
「愛じゃ。大切なものとの絆。それ以外いらん」
リンネは即答する。
これはリンネの1500年以上の経験から来る彼女独自の答えだった。
「わ〜お。即答ですね!」
シーベルトは感嘆をあらわにしながら、頷く。
そして再び両者の間に沈黙が流れる。
「・・・この流れじゃと、今度はお前が答えるのと違うのか?」
こんな経験は珍しいとはいえ、おおよその流れはリンネでも理解していた。
否定するにしろ、肯定するにしろ、せめて何かオチというものをリンネは期待していた。
まさかあんなに乾いた返事一つで終わらせられる質問だとは思っていなかった。
「この世の中で一番大切なものですか〜?うーん・・・・」
「質問者が悩むのじゃな・・・」
シーベルトは唸りながら考える。長考の末にこやかに顔をあげて答える。
「すみません。ちょっと答えが出ないんで。また次会うときまでに考えておきますね!」
「な・・・!!」
リンネは耳を疑った。コケにされているような気分がした。
「え〜と。それでですね。僕がここに来た理由としまして〜」
シーベルトは突如として話題を変える。ここまで無茶苦茶な会話もリンネにとって久しぶりだった。
「リンネさんには僕達の仲間になってもらいたいんですよ」
「仲間・・・? お前達?」
「そうですそうです。僕達はある組織を設立しまして・・・えーと、組織名はまだ決まってないんですけど、みんな優しいですよ。入ってくれます?」
「嫌に決まっておろうが・・・」
「え〜・・・あ、そうだ。組織名は決まってないけど目的は決まってるんですよ!」
「目的?」
「そうです。僕達の目的は世界を平和にすること。どうですか?入ります?」
「世界平和だと・・?具体的に何をするつもりじゃ?」
「え〜と・・・話すと長くなるので、今度手紙が何かでお教えしますね」
ここまできな臭い話はリンネにとって二回目だった。
しかし一回目である勇者達とは毛色が違いすぎる。アーノルド抜きにこんな話に乗れるリンネでも無かった。




